| 1047.水晶 二次成長形 Quartz Secondary growth (ブルガリア産ほか) | 






いったん始まった結晶の成長が止まり、しばらく時をおいて再び始まる、ということは自然環境において普通に考えられることである。止まっている間に何もなければ、再開はただ先に晶出していた結晶の上をなぞり続ける過程になろう。しかし多くの場合はその前後で環境条件(温度、圧力、熱水の成分等)が著しく変化しているだろうし、また成長を止めた結晶の上に別の鉱物が堆積していたり、エピタキシャルに着床して表面状態(ポテンシャル)を変えてしまっていることもあろう。
水晶では状況が変化した後の二次成長によって、松茸水晶のような異形が生じたり、ファントム水晶のように内部に成長履歴を示す模様が生じたり、あるいは無色の水晶の上に紫水晶が戴冠したりすることが指摘されている。ジャカレー水晶のようなブロック形の付着も類似の現象かもしれない。これらは例外はあるにしろ、基本的に元の結晶構造をベースにした平行連晶形である。
一方、二次生成の水晶が、最初の結晶の(柱軸)方位から外れて付加している例もしばしば観察されている。ここに挙げる標本がそれで、もとの大きな結晶の柱面に多数の小さな結晶が林立するのが典型的な姿だ。
上の標本は右側の柱面だけに二次結晶が付着しており、重力の影響を受けた結晶核の沈積が非平行的な成長をリードしたように見える。
こうした林立(屹立)現象が起こる要因として、もとの結晶面上を別種の鉱物(方解石等)が被覆し、ラティスの特性が変化したために偏向が起こった、という仮説が昔からある。R-G式双晶の発生機構も方解石が介在したためという仮説が示されたことがあるし、カクタス・アメシストの柱面上のトゲトゲにも同様の仮説がある。が、必ずしも妥当な証明がなされたわけではない。(要は分からない。)
ただしこの種の現象はけして珍しいものでなく、むしろ産地によって普通に見られることだ。   
二番目の標本は三方晶的な性格の(r面とz面の大きさに顕著な差のある)水晶群上に方解石が積り、閃亜鉛鉱を伴う産状で、二次成長の水晶は、全方位的ではないが、ある程度まで柱面を選んで着床している。ただその方向は各晶によってまちまちだ。よく見ると柱面上には林立するものばかりでなく、亜平行連晶的な配置で微小な鱗状晶群が倒れ込むように並んでいることが分かる。この状況は、二次生成の水晶ではむしろ珪酸成分の一部が他の元素に置換されて結晶構造そのものが歪んでいることを予想させる。