195.トパーズ Topaz pseudo@ Orthoclase (ドイツ産)

 

 

正長石後のトパーズ−ドイツ、シュネッケンシュタイン産

 

No.194に続いて、この標本も仮晶である。
見た目、正しく正長石であり、それ以外考えられそうにないが、実は中身はトパーズになっている。正長石の成分はK(AlSi)、トパーズはAlSiO(F,OH)であるから、フッ素を含む高温の揮発性ガスないし溶液が作用して正長石を分解し、カリウムを外してフッ素に置き換えたと考えられる。No.120に書いたが、シュネッケンシュタインはかつてトパーズの名産地だったところで、グライゼン化作用によって上記の反応が起こったと考えられている。もうちょっと反応が進んで正長石が完全に消滅していれば、あるいは替わって美しいトパーズの結晶が出来たのかもしれない。(cf. No.756)

本品もフライベルク鉱山学校からのお蔵出し。博物館や学校の標本室には、常に新しい収集を続けてゆく使命があり、しかし寄付金や予算は限られているのが普通なので、寄贈されたり自ら収集した標本であまり値打ちのないものや大量にストックのあるものは、別種の標本との交換に出される運命にある(たまに金銭に換えられることも)。こう書くと、じゃあ、ろくな標本はないね、と思われるかもしれないが、彼らには余り物でも私たちにとって得がたい標本は結構ある。今では入手困難な古い品が出てくるのもこんな時だ。素晴らしい標本が資金作りのため手放されることもある。もちろんそれに見合うだけのモノは、ちゃんと提供される。公的機関と鉱物愛好家とは持ちつ持たれつである。
フライベルク鉱山学校は設立してほどなく標本販売を手掛け、コレクションの普及に努めた伝統を持つ。かつて(19世紀)は教授職への俸給の過半が標本部の利益で賄われていたという。cf. No.756

ついでながら、正長石は写真のようなX形に双晶することがよくあり、これをカルルスバット式双晶と呼んでいる。詳しくはいずれ正長石をアップする時にでも(cf. No.430)。日本では、このテの結晶を「交い石」(違い石)と呼び、巫術的観念によって音声上の類似から「誓い石」に当ててご利益を得る。弘法大師が、「この石を携える者、諸々の災厄を免れさせん」と誓ったとの説話が残っている。

cf.イギリス自然史博物館の標本(コーンワル、ラクスリアン産)

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