347.スクテルド鉱 Skutterudite (モロッコ産) |
コバルト鉱の品位が1%を超えるのは稀、とNo.345に記したが、その例外的な産地として、カタンガ地方のほかにも、カナダのオンタリオ州コバルト・ゴーギャンダ地区やモロッコのブ・アズール(Bou
Azzer) が知られている。
ブ・アズールの鉱床が発見されたのは 1930年のことで、以来同地のコバルト華標本は、私たち鉱物愛好家に親しい。スクテルド鉱のぬぺっとした白銀色の6〜8面体美晶が市場にあふれ始めたのは近年のことだが、金色だったら黄鉄鉱そっくりのぴかぴか標本はすでに定番であるといえよう。
本鉱はコバルトの砒化物であり、組成式はCoAs2-3
と書かれる。秩序正しい構造を持つべき鉱物の理想組成が整数以外の比を持つのは(そして変動するのは)妙な感じがするが、単純な砒化金属や硫化金属には、このような例がまま存在する。砒素の少ないものはかつてスマルト鉱
(Smaltite)と呼ばれていた。またしばしばニッケルを含むことがある。
スクテルド鉱がカタンガになく、ブ・アズールにあるのは、ここに砒素があるから。ついでにいうと、輝コバルト鉱
CoAsSも出る。
追記:本鉱はノルウェーのモドゥム、スクテルードに産したコバルト鉱が記載されたもので、1845年のドイツ、ハイディンガーの書に
Skutterudite
の名が紹介される。和名は方コバルト鉱ないし方砒コバルト鉱。
蒐集の対象となるような美麗標本は歴史的には比較的珍しく、20世紀に入るまでザクセン地方のエルツ山地産が知られる程度だった。cf.
ザクセン鉱山町
ニッケル分を含むニッケル・スクテルド鉱は 1892年に A.J.モーゼスらが報告したが、原産地はザクセンのシュネーベルクである。この地に大量に出たビスマス-コバルト-ニッケル鉱石の「クロアント鉱
Chloanthite」(砒ニッケル鉱〜砒コバルト鉱。中間種、現在は亜種名)は概ねニッケル・スクテルド鉱だったとみられている。
スクテルド鉱とニッケル・スクテルド鉱は単結晶中に離溶した領域を形成する傾向があり、ザクセン産の結晶標本はこの2種を同時に含む、と言えないこともない。大戦後の冷戦期には東ドイツとなって標本はあまり西側に出なかったが、90年代以降、古いズリから得るのか折々標本が現れる。
ちなみにクロアント鉱の記載は 1845年、 A.ブライトハウプトによる。語源は(表面が)「緑色に変わる」の意をもち、ニッケルと砒素成分から風化物のニッケル華(コバルト華混じり)が生じるためと思しい。
一方、モロッコのブ・アズール産はニッケル分に乏しいスクテルド鉱である。結晶標本は 1950年代からちらほら、70年代にアーバー鉱山産の良品が出て一躍有名になった。1980年代に7号鉱脈に美麗品を産し、21世紀に入っては7号鉱脈ほかいくつかの鉱山・坑道から標本が出ているらしい。
硬度 4.5-5.5のカロール鉱に似るが、スクテルド鉱は硬度 5.5-6で幾分硬く、ナイフで切ることが出来ない。(2023.6.11)