356.自然セレン Native Selenium (チェコ産) |
セレニウムは単体で産出することの稀な元素で、普通は他の金属のセレン化物として見出される。時に自然硫黄中に含まれることがあり、セレン硫黄と呼ばれて、橙〜赤色を帯びる特徴がある。日本でも硫黄島などに産出するが、含有セレンの量は実際には極微かに過ぎない。(参考 No.193 No.218)
かつて鹿児島県串木野鉱山では、金銀鉱(セレン銀鉱や硫セレン銀鉱を含む)から灰吹法で金銀を分離する際、煙灰中に平均15%程度(5〜30%)のセレンが濃集されたので、これを副産物として回収した。標本の自然セレンは、チェコのボタ山の火災によって生じた結晶だが、一脈通じるところがありそうに思われる。セレンを木炭上に熱すると、山葵/ハツカダイコンに似た一種異様な臭気を発するが(参考 元素の検出法)、これらの現場ではどんな臭いが立ち込めただろうか。
セレンには硫黄と同じく多くの同素体がある。もっとも安定なのは黒〜灰色の六方晶系の金属セレンで、電気を良く通す性質を持つ。上の標本はおそらくこのタイプだろう。ほかに赤、黒色の非金属同素体などが知られている。
補記:No.97 硫カドミウム鉱の結晶も同産地で同様に生成されたもの。
cf. No.735 セレン化ビスマス鉱