475.軟玉 "マーズデン" Marsden Flower  (ニュージーランド産)

 

 

nephrite var. Marsden flower jade マーズデン・フラワー・ジェード

マーズデン・ジェード(軟玉 磨き面) 
−ニュージーランド南島、マーズデン川産

nephrite var. Marsden flower jade マーズデン・フラワー・ジェード

同上 −研磨していない表面

nephrite var. Marsden flower jade マーズデン・フラワー・ジェード

マーズデンフラワーのペンダントトップ(研磨面)
−ニュージーランド、ウェストランド、マーズデン川

 

ニュージーランド南島は軟玉の名産地で、透明度の高い(亜透明)、鮮緑色〜深緑色の石が採れる。その発色はほぼ純粋に鉄分に起因するものという。

先住民のマーオリは軟玉をポウナム(緑の石)と呼び数百年に渡って愛用してきたが、南島ウェストコーストのウェストランド地域にあるアラフラ川やタラマク川は、彼らが特に珍重する類のポウナムが採れることで古くから知られた。
マーズデン川はタラマク川の北2kmほどに位置し、近年、もっとも盛んに採掘されてきた産地のひとつだ。 ウェストランド地域の土壌には金が含まれていて、 西洋人の入植後、あちこちで採金が行われた。その頃は軟玉もまた夥しく拾い上げられたものだという。

マーズデン川に分布する産地のいくつかは、かつて中国人の鉱夫が採金作業をしていた鉱区だった。彼らは本業の合間に軟玉を拾い上げ、1面または2面を磨いて気晴らしをした。そんな風に磨かれた小石が昔の鉱山キャンプの火床で見つかっている。 軟玉(透閃石〜緑閃石)は強い火力の下でも割れない唯一の石と言われ、かまどや火炉(鍛冶炉にも)の敷石に用いられたのだが、それは入植者たちが石の宝石価値を認めていなかったことをも示している(中国人なのにね)。当時マーオリがマーズデン川の軟玉を知っていたかどうかは定かでない。

降って現代、マーズデン産軟玉の呼び声は漸く高い。
彫刻師は好んでマーズデン・ジェードを求め、イマジネーションに満ちた作品に仕立てている。というのも、ここの原石は内部に美しい緑色を秘めながら周辺部は錆色がかっていることが多く、ちょうどミャンマー産の老坑翡翠と同じように、外皮が風化して翡色に変化しているからである(→参考画像)(No.221 翡翠)。
切出した石片は、鉄分による赤錆色〜黄色〜クリーム色〜緑白色〜鮮緑色〜深緑色といった豊かな色合いを同時に楽しむことが出来る。
この種の石は一般に「マーズデン・フラワー」と愛称されていて、たいてい肉眼的な繊維結晶質の筋が波打つ模様を描いて流れているのだが、ときに乳白色のもや状の斑が花弁か星の飛沫を散らすように拡がったものがあり、まさにフラワーの名に相応しい。ねっとりした軟玉特有の緑色と響きあって、流動的な、石とは思えないあやしい表情を見せる。
原石は厚く被った外皮のため、川底のほかの転石と区別するのが難しい。しかし一見ありふれて見えるその石の内部にはニュージーランドでも最高級の玉が宿っているのだ。 ジェードハンターたちは川を浚うとともに、古い鉱山キャンプ跡を念入りに探して回る。すでに先人に磨かれて内部の見える軟玉が、そこに眠っているからだ。

ちなみに現代のポウナム細工は色の深みと透明度を出すために表面を鏡のように磨きあげるのが普通だが、マーオリはむしろ軽く磨いた程度の、石の肌の暖かみを喜ぶという。 

cf. ポウナムの種類について 
  軟玉の話3(ニュージーランドのヘイ・ティキ)

補記:ウェストランド・フィールドの採金時代(19世紀後半から20世紀初頭にかけて)、作業に伴って掘り出された軟玉のほとんどは、金を選別した後でそのまま埋め戻された。それでも数百トンの玉が市場に流れ、国内で消費されたほか、ドイツのラピダリー業界をも潤したという。ウェストランドの軟玉埋蔵量は莫大であり、現在でも主力産地となっている。本文でも触れたが、原石の表面は酸化し変色しているため、一緒に転がっているやはり風化した蛇紋石など、ほかの石との識別はよほどの目利きでないと難しい。マーオリはよくその能力を発揮したというが、同じような先住民伝説は、ホータンやミャンマーでの河流玉採集においても語られる。何事も年季と情熱でしょ。

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