476.軟玉 Nephrite (ニュージーランド産)

 

 

nephrite ネフライト

nephrite ネフライト

ネフライト (上:破面、下:切断面) −ニュージーランド産

 

ニュージーランド産のネフライト(軟玉)、だろうと思う。
くすんだオリーブ緑色の色調、層状の濃淡縞、ささくれのある断面、亜透明感な感じ、手にしたときの適度なやわらかさ、切断面のねっとりしたつや(標本の裏面)。いずれもこの石がネフライトであることを支持しているように思う。
しかしラベルが Jadeite(ひすい輝石)となっていることは言っておかねばなるまい。ある場合にはラベルは標本の命だから。
もとは誰ぞやのコレクションだったのを、アメリカのさる有名な標本商さんからインターネットを通じて購入した。知る限り、ニュージーランドに Jadeite が産出すると認めた文献はないので、あらかじめ「軟玉ではないか?」と問い合わせてみたが、「私の仕事は標本をそのまま流通させることであって、鑑定したりラベルの正誤を判断することはその任にあらず」と返事があって、門前払い。
以前にも別の標本商さんで鉱物種に疑義を挟んだところ、「私自身は希産鉱物について門外漢だが、入手元の博士は信頼に足る人物で、私は彼の分析を信じている」と答えられたことがある。
「信用出来る業者から仕入れた品だから間違いない」という論法は、たいていの標本商さんの決まり言葉なので、我々愛好家は、まあそんなものと受け止めておくほかない。
とはいえ、業者間で取引きした商品なら、鑑定の責任を相手方に振っても名分が立つだろうが、個人蔵のコレクションについては、仕入れた標本商さんが責任を持たずに誰が持てるだろうか、と思う。国内でも、数年前に某有名コレクションの売り立てがあったとき、元のラベルをそのまま流用したために、標本としておかしなものがずいぶん出回った。

それはともかく、この石は私の判断で Nephrite としておく。もしか Jadeite なり玉髄なりだった場合は笑われても仕方ない。少なくともそれは私自身の間違いだ。(Jadeite だったら画期的ではあるが。)

ニュージーランドはイギリス連邦の一員で、島の鉱産資源は従来、名目的に英国王室の所有物とされていた。軟玉(ポウナム)についても然りで、公有地での採掘権がその法的了解の下に付与されてきた。しかし、90年代に入る頃から先住民マーオリ(ナイ・タフ族)の先取権的財産が不法な手続きによって譲渡されたという認識が一般化し、ポウナムに関する法的権利は1997年までにすべてナイ・タフ族に返還されることとなった。逸失利益に対する補償が支払われ、既設の採掘権も契約期限が切れた時点で更改されないことになった。
現在は決められた海岸でなら、機械類を使わないで24時間以内に採れる範囲で誰でもポウナムを採集していいそうだが、それ以外の地域では完全に禁じられている。一方、ナイ・タフ族が(彼らの精神的財産である)ポウナムを今後どう扱ってゆくかは、まだ全体的なコンセンサスが形成されていないため、商業的採掘が事実上ストップした状態にある。
ポウナム細工を扱っているお店は、手持ちのストックを用いるか、あるいはカナダなど外国産の石に頼らざるをえない状況で、苦慮しているらしい。

補記:上記の標本商さんは 2023.12で営業を終え、ネット上には販売済みの標本ギャラリーが保持されている。本ページの標本は次の url に情報がある。Jadeite と標識されていることがお分かりだろう。リンク

cf. ポウナムの種類について
   スノーフレーク・ジェード
   ニュージーランドのヘイティキ

cf.イギリス自然史博物館の標本(ニューカレドニアの軟玉製 石斧の刃)

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