504.エカナイト Ekanite (ミャンマー産)

 

 

Ekanite エカナイト

エカナイト -ミャンマー、モゴック産

 

エカナイトは20世紀の半ばにスリランカで発見された鉱物で、発見者エカナヤケの名をとって命名された。当初はスイスの宝石学者エデュアルド・ギュベリン博士に因んでギュベリナイトという名が考えられたそうだが、博士自身が「宝石の名にふさわしい響きでないから」と固辞されたという。
エカナイトはその世界ではレアなジェムストーンということになっているが、僕にはレアなストーンではあってもジェムとは思われないので、そんなにこだわらなくてもよかったのでは?という気がする。でも多分、博士は自分の名前が特定の石に限定的に固定されてしまうのがイヤだったのではないかなとも思う。さまざまな宝石の研究に携わり、多岐にわたる貢献をなされた方だったから。(1990年代に発見されたゾイサイトの緑色透明亜種はグベリナイトの名を提唱されたが、定着しなかったとか)

エカナイトはトリウムとカルシウムの珪酸塩鉱物である。トリウムは放射能を持つ元素なので、本鉱は常時放射線を発している。
放射線は電磁波であることもあるし粒子線であることもあるが、いずれにせよ極微小な領域に凄まじいエネルギーを載せたものだということができ、放射線が通る道筋の近傍にある物質と相互作用を起こして、そのエネルギーを相手方に受け渡す。すると受け取った側は処理に困って、しばしば挙措不安定な状態に陥る。
例えば、整然と規則正しく配列していた鉱物(固体)のとある粒子がエネルギーを受け取ると、周りの原子や分子との結合を振り切って、歪んだ位置(熱的に平衡でない位置)に跳び出してしまったりする。そしてたいてい元の位置に戻ってこれない。
喩えるなら、その粒子はラッシュ時の満員電車に詰め込まれて身動きの取れない乗客みたいなものだ。とにかく必要最小限のスペースと姿勢を確保して一定の位置におさまっているのだが、急ブレーキがかかったりすると、なぜか動けるはずのない体の一部が動いている。気がつくと、胴体は傾斜しているし、足は片方しか床に着いていないので苦しくてならない。しかし周囲は再びぎちぎちに詰まってもはや姿勢の修正なぞ一寸たりともかなわない、まあそういった破目に陥ってしまうわけである。
放射能鉱物の近辺では常にそんな形で、結晶構造秩序の分散化が進行している。メタミクト化というらしい。

鉱物の結晶をある程度まで細かく一様な粒度に粉砕した粉末に、単波長のX線をあてて、散乱線の強度を測定すると、試料は無数の結晶が無秩序に分布しているため、あらゆる角度で線量が均等になるはずだが、現実にはそうでなく、ある幾何学的な規則性の下に強度がぐんと高まる位置を(複数)観測することが出来る。これは結晶構造に起因するX線散乱波の干渉模様であり、ピークはふつう鋭く立つ。結晶構造が一定の相対位置関係を保って成立していることの証しである。そのデータを元に鉱物種を鑑定するのがX線粉末回折試験だ。
ところがメタミクト化した物質の試料を用いると、ピークは立つが裾野がゆるやかに広がっていたり、あるいはピークが観測されなかったりする。結晶構造にゆらぎが生じ、あるいはほとんど無秩序な状態となっているからだ。
興味深いのはオパールやガラスなどの非晶質の物質でも同様の結果が得られることだ。
すなわちメタミクト化とは、放射線のエネルギーによって結晶質の鉱物が非晶質物質と同じような状態に変化してゆく過程だといえる。メタミクト化が進行するほどピークは不明瞭になってゆく。結晶度の違いをこれによって評価することが出来る。
ちなみに試料粉末を機械的に非常に細かく粉砕してゆくと、結晶構造が破壊されてしまい、やはりピークの明瞭でない結果を示すことがある。要注意。

オパールが玉髄になってゆくように、非晶質の鉱物は長い時間の経過と共に晶質化(結晶化)してゆく傾向がある(⇒No.376No.377)。しかしメタミクト化した物質は放射線がよほど弱まらない限り結晶構造を回復することはないと考えられる。もっとも熱(エネルギー)を加えたりして平衡反応を支援してやると、再び晶質化することもあるそうだが。(放射性元素は壊変によって別種の元素に変化してゆくので、原状回復はありえない)

上の標本はミャンマー産。ちょっとばかりモルダバイトを想わせるワインボトル色のガラスめいた石である。カットすれば、暗いグリーンのルースが得られよう。
それにしても、放射性鉱物をカットしてどうする? 磨く時に粉塵(汚染物)が体に入ってしまうぞ〜。 

鉱物たちの庭 ホームへ