フェナス石は珪酸ベリリウムという単純な成分の鉱物だが、これにアルミニウムが加わるベリル(緑柱石)に比べて産出がずっと稀である。そのわりにカット石を目にする機会が多いのは、トパーズより屈折率が高く、きらきらしい光を放つからか。硬度が高く、へき開性も弱いので宝石向きではある。
フェナス石は1883年にウラル地方のエメラルド鉱山で発見された。この産地ではエメラルド(ベリル)やアレキサンドライト(クリソベリル)とともに雲母片岩中に含まれている
(cf.ヨアネウム5)。ベリルの変成物として生じるらしい。が、一般には花崗岩ペグマタイト中に、微斜長石、水晶、トパーズなどを伴って産することが多い。またグライゼンや熱水脈中の産状も知られている。
学名Phenakite
はギリシャ語の「欺く」に因み、水晶(あるいはトパーズ)に似て見分けにくいためだという。
燐灰石 Apatite
がやはり、「欺く石」とされたのに似ている。
(石英中に)「うまく隠れた」という意味の
ユークリプト石(Eucryptite)も命名の経緯は同列であろう。
それにしても、石の特徴を語るのでなく、混同されやすいということを主張するだけの名前は何となく空しい。まあ、それも特徴なのかもしれないが…
フェナス石は双晶になることも多いが、トパーズのように結晶の柱面にタテに条線が入って水晶と区別出来ることがある(水晶ではヨコに入る)。一方、トパーズはフェナス石と違って底面に平行なへき開が明瞭である。
上の標本はアメリカのアンテロ山で採れた標本で、わりと昔から知られたもの。下の標本もアメリカ産。アメリカには小規模な産地が沢山ある。
近年ではマダガスカルに大量の産出があって市場を賑わせた。また昨年あたりからバランスのとれた頭部を持つ細柱状の美晶がミャンマーに出て話題になっている。この形の本鉱は実は珍しい。cf.
No.879
Phenakite はPhenaciteとも綴られる。私はその昔、標本を手にするまで、この2つは別の鉱物だと思っていた。よくあることだけどさ。