549.ユークレース Euclase (ブラジル産ほか)

 

 

Euclase ユークレース

ユークレース−ブラジル、リオグランデ・ド・ノルテ州エクアドール産

ユークレース Euclase

ユークレースと白雲母 −ジンバブエ、カロイ、ムワミ鉱山産

Euclase ユークレース

ベリル後のユークレース(仮晶)?と部分的な蛍光(LW,MW)
−ジンバブエ、カロイ、ムワミ鉱山産

ユークレースは希産のベリリウム珪酸塩鉱物のひとつで、頭部が斜めに傾いた柱状の結晶をつくる。本来無色透明だが、美しい青色や緑色、藤色などに着色することがあり、たいへん魅力的である。このタイプの石は稀にカットされて高価なレア・ジェムとして提供されることがある。ただ強いへき開性があるため衝撃に弱く、装用には注意が必要だろう。
そもユークレースとはギリシャ語で「割れやすい」を意味する。まさにこの性質に拠って、フランスの鉱物学者アウイが1792年に命名したのだ。 和名に脆玉石がある。
ちなみにポピュラーな宝石・貴石でも、タンザナイトクンツァイト蛍石などへき開の明瞭な石は、いずれも衝撃防御を怠るといつなんどき悲劇が訪れるかしれない。ご用心。

 ユークレースBeAl(SiO4)(OH) の成分はベリルBe3Al2Si6O12のそれに似ており、実際、ベリルから変化して生じたと見られる場合が多い。花崗岩ペグマタイトに産し、トパーズやベリルを伴うことがある。 硬度7.5。比重3.09〜3.11。原産地はおそらくブラジルMG州のオウロ・プレトだろうと考えられている。

 上の標本はブラジル産の典型的な結晶で、青緑色の帯が走っている。「ユークレースのパテントといっていい」と堀博士が書いているが、この帯はつねに結晶の柱面(b軸)に平行に生じ、それはへき開の方向に一致している。 
発色の要因は、エメラルドと同様に微量のクロムイオンによるという説と、サファイヤと同様に微量のチタンや鉄イオンによるという説とがある。 

2番目の標本はジンバブエのムアミ(ミアミ)鉱山産。ここのペグマタイトでは濃い青緑色の結晶が出る。色調はブラジル産に似ているが、その2倍以上の鉄分を含むことが、濃色の原因になっているとみられる。

下の標本は同じくジンバブエ産なのだが、サファイヤに近い色を呈し、上2つとは大分趣きが異なっている。図鑑にサファイヤブルーと形容されるユークレースの色はこれだろうか? 
実をいうと、結晶形といい、色目といい、石理といい、私はこの標本がユークレースとは信じられず、サファイヤ(コランダム)ではないのかと、入手した業者さんにメールを送ったことがある。もらった返事は次の通り。
「私としては本鉱がユークレースであることに確信があります。私はムワミ鉱山へ行って採集をした鉱夫と個人的な知り合いなのです。彼はこの3年間、ユークレースの標本を提供してくれています。標本の奇妙な形状はこのユークレースがベリルの仮晶だからで、もとの結晶形が残っているのです。これは標本が変則的なへき開を示す理由でもあります。この標本はほぼ純粋なユークレースですが、部分的にベリルが残っているものでしょう。」
それでも私はまだ疑いが拭いきれない。標本の青は紫がかっていてベリル(アクアマリン)としても変わっているし、へき開の感じが手元のベトナム産ルビー(コレンダム)にそっくりなのだ。ベリリウムが含まれているかどうか分析してみればはっきりすることなのだけれど…

近年コロンビア、ボヤカ県のエメラルド鉱山から、淡いながら、結晶全体がムラのない緑青色の極美品が出て、愛好家にため息をつかせている。なにしろ「目の玉が飛び出すほど」高価なので。

補記: 2018年6-7月には、ブラジル、バヒア州ブルマドの苦灰石鉱山付近のどこかで、赤橙色に着色したユークレース結晶が出た(これまたかなりの高値)。

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