569.ラドラム鉄鉱 Ludlamite (ボリビア産) |
コーンワルの鉱山地帯からは500種を超える鉱物が産し、30種以上の新鉱物が記載されている。知名度のある種としては、車骨鉱 Bournonite (1805),
藍鉄鉱 Vivianite (1817) , 砒四面銅鉱 Tennantite(1819) , オリーブ銅鉱 Olivenite(1820), 毛鉱Jamesonite (1825) などが、いずれもこの地を原産に記載された。鉱物学の充実にコーンワルが果たした役割は大きい。
また19世紀以降(特に19世紀後半から20世紀初頭にかけて)、珍しくも美しい二次鉱物の数々によって、コーンワルが欧米鉱物コレクターの憧憬を誘ってやまなかったことは、今日なお見られる当時の古い標本によって想像にかたくないところである。ラドラム鉄鉱はそうした「クラッシック」と呼ばれる古典的鉱物のひとつであり、欧米の愛好家が高く評価するものだ。
鉄の4水和燐酸塩で、組成は(Fe, Mg, Mn)3(PO4)2・4H2O。鉄の8水和燐酸塩である藍鉄鉱によく似た雰囲気を持っている(しばしば共産する)。ややダークなリンゴ緑色を呈し、輝沸石に共通する菱形の結晶面を見せる。この形は英語圏では「coffin-like
棺オケのような」と妙な形容がされており、色調にも派手さはないが、華美に飽いた渋好みの愛好家が目を細めそうな、いぶし銀の佇まいではある。
しばしばトランプや扇を広げるように結晶が裾広がりに重なって、リボンや蝶ネクタイ状の群晶をなすこともポイントだろう。この形は束沸石によく見られるものだ。
原産地のウィール・ジェイン (Wheal Jane)は18世紀中頃から錫をメインに砒素、銅、銀、亜鉛などを掘った鉱山である。19世紀末、周辺の錫鉱山が採算性の悪化によって相次いで閉山していく中、砒素などの副産物収入によって暫し持ちこたえていたが、1895年頃に閉山された。20世紀以降はその時々の最新技術を投入して間欠的に営山されたが、1992年の休止を最後に再開発の計画は立っていない。
ラドラム鉄鉱は 1876-77年頃に発見され、ロンドンの著名なコレクター、ヘンリー・ラドラム(1824-1880) に因んで命名された。1880年代の短い期間、新たな鉱脈が開発された際に美標本を多産したといわれる。
1世紀を経た現在、原産地標本の流通は少なく(「古典標本」たる所以だが)、市場に出回っているものはほとんどがボリビア産やアメリカ産である。ボリビア産はことに結晶サイズが大きく、多様な結晶形の美しさは本家に優るとも劣らないと定評がある。
画像の標本はいずれも黄鉄鉱の母岩上に本鉱が載っている。産地は世界屈指の錫鉱脈で知られるワヌニ鉱山のあるところだ。ワヌニ鉱山は数年前、鉱脈の採掘権を巡る民間の激しい抗争が起こって国際的なニュースになった。収拾のために政府が介入し、 2006年11月に国有化されて現在に至る。この鉱山の採掘設備は近代的かつ大規模なもので、標本を取り分けて大事にとっておくような牧歌的な作業はとうてい望めない。美しい標本は周辺の小さな鉱山から供給されているらしい。