568.コーンワル石、コルヌビア石 Cornwallite-Cornubite (イタリア産)

 

 

Cornwallite - Cornubite コーンウォール石

コーンワル石(濃緑)、コルヌビア石 
−イタリア、サルジニア島、ムラベラ、サンタ・ルチア産
(撮影 ニコちゃん)

 

鉱物を分類して種を区引きし、名前を決めるのは人の為す業である。恩義を受けた先学や信仰上の神々の名前をつけるも、祖国の名や産地名をつけるも、意のままに叶うのは記載者の特権であって、ある面では褒賞でもあろう(cf. No.453)。
その際、記載者は自分の名前をつけられないという内規が鉱物学界にあるらしいことは以前に書いたが(cf.No.454)、なんとも風変りな慣習だと今でも思う。自分の名前をつけたければ、仲間か後輩に記載してもらう抜け道が広く認められているのだから、なおさらである。

それはともかく、思い入れのある名前はそれに相応しい美しい(立派な)鉱物に、とは誰しも願うことではなかろうか。ここに挙げたコーンワル石(コーンウォール石)は、その点、私にはどうも得心のいかない命名のひとつである。
この種は肉眼的に明確な結晶を作ることの少ない、ごく地味な鉱物である。稀に美しい結晶形を示す標本もあるが、たいていブツブツのある緑色の皮膜〜被殻状や不完全な球顆状で産し、見栄えがしない。そんな種に風光明媚な景勝地として知られるコーンワル(コーンウォール)地方の名を冠するのは、どんな妥当性があるのだろうか(石に、でなく地名に対して)。コーンワルからは新鉱物がいくつも発見されて、たいてい珍しい二次鉱物ながら美しい結晶鉱物も少なくないのだから(例えば Liroconite 1825年)、何故わざわざ?という気がしてならない。
なにか事情があるのかもしれないが、鉱物図鑑は一般にその辺りをさらっと流す傾向があって、なかなか知る機会がない。しかし、日本に「日本の新鉱物」というローカルな国産新鉱物情報が存在するように、イギリスに行けばイギリス流のソースがしっかりあるのではないかと思う。

コーンワル石は1847年に命名された。原産地はいうまでもなくコーンワルの鉱山で、組成はCu52+(AsO4)2(OH)2、銅の水酸砒酸塩である。水に溶けそこなった小麦粉のダマを緑色絵の具で染めたような感じは コニカルコ石ベイルドン石などにも見られるものである。

コルヌビア石は、コーンワル石と(ほぼ)同じ成分Cu5(AsO4)2(OH)4で、ただし結晶構造が異なる同質異像の鉱物である。しばしばコーンワル石と共産する標本が出回っている。1959年の記載だが、コーンワル石が発見された頃は結晶構造を知る方法がなかったから、これは妥当な流れだろう。原産地はコーンワルで、コルヌビアは古代ローマにおいてコーンワルを指した言葉である。つまりこの2種は同じ地名を語源としている。同質異像の鉱物として、おそらく狙って命名したものだろう。原記載者のヘイ博士(1904―1984)は、アルファベット順の鉱物名辞典ではコルヌビア石はコーンワル石の次に並び、データの比較がしやすいだろうと言ったらしいが、これはどちらかというとプライベートな発言。

因みに鉱物種を色で区別する方法は絶対ではないが役に立つことがある。この2種が共産する場合、コーンワル石は濃いめの緑色であり、コルヌビア石は淡いめの緑色をしているという。原産地標本はコーンワル石よりコルヌビア石の方が透明度が高い。また、組成上、コーンワル石は水和度が高く、コルヌビア石に先行して生成するとの報告もある(ネバダ州マジューバヒル産の標本など)。

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