572.擬孔雀石 Pseudomalachite (オーストラリア産)

 

 

Pseudomalachite 擬孔雀石

擬孔雀石−オーストラリア、ウェストボーガン産

Pseudomalachite スードマラカイト

球果状に集合した擬孔雀石 −スロバギア、ルビエトワ(リベセン)産

 

根拠のない思い込みになるが、炭酸塩や硫酸塩鉱物の色は明るく素直なものが多いように思う。燐酸塩は色が浅いというか淡い目の地味な感じになりがちで、砒酸塩はヒネリの利いたクセのある色で暗さと派手さが同居した感じがある。
そんな先入観で見ると、この擬孔雀石やベゼリ石は、私にはどうしても砒酸塩のオーラを放っているように感じられてならないのだが、実際はどちらも水酸燐酸塩鉱物である。
この2つの鉱物の色は、絵の具の「ビリジアン」だとかねがね私は思っていた。だが調べてみると、ラテン語の「ヴィテレス(緑色)」を語源とするビリジアンは、水酸化クロム(3価クロム)が主成分の顔料だという。こちらは水酸化物なのだった。私の思い込みは、単なる錯覚と言ったほうがよさそうだ。 
それにしても水酸化鉱物にははっきりした表情がない。このグループにはダイアスポア、針鉄鉱(褐鉄鉱)、水滑石、ギブス石などがあるが(Wikiに挙げられている)、ほかのグループのようにイメージが湧いてこない。私にとって曖昧模糊とした存在である。

擬孔雀石は砒酸塩コーンワル石の燐酸塩版にあたる。モノの本には、どちらも緑色の皮膜状で産するため識別が難しいとあるが、上のように皮膜の厚い標本はコーンワル石ではほとんど見たことがない。
擬孔雀石の名は孔雀石に似ているという意味であり、孔雀石は孔雀に似ているという意味である。また孔雀石の学名マラカイトは、植物のマロウ(ゼニアオイ)に似ているという意味である。鉱物は何かほかのものに、往々にして石以外の事物に喩えられることが多い。(それを心外に思うのは鉱物愛好家だけだろうか)。
両者はいずれも銅鉱床の上部酸化帯に生じて、共産することもある。孔雀石は色の淡い部分と濃い部分とが交互に現れて縞模様や同心円模様を作るが(No.230下の画像)、擬孔雀石にその例は少ないそうだ。塩酸に発泡しない(炭酸ガスを放出しない)点が孔雀石との違いである。わたくし的には擬孔雀石は、いかにも砒酸塩めいた色の暗さがあって(←まだ言い募るひと)、その点で孔雀石とは明らかに違ってみえるように思う。

上の標本は孔雀石と言われれば貧弱に見えるが、擬孔雀石としてはリッチな方で、少なくともそういう触れ込みに惹かれて求めた、業者さんコレクションからの放出品。
下の標本は珠状の集合体。中国旧訳名の葡萄燐銅鉱にふさわしい。

追記:ウラル、ニジニ・タギル産の暗エメラルド緑色の結晶が Cu3P2O8・2Cu(OH)2と分析され、二分子の水を持つことから Dihydrite 二水石と命名されたが、後に擬孔雀石と判った)

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