606.方ソーダ石 Sodalite (USA産ほか)

 

 

Sodalite ソーダライト 方ソーダ石

かすみ石に伴う方ソーダ石の脈 -USA、メーン州リッチフィールド、デニスの丘産
1890年代採集 John A.Manley

Sodalite ソーダライト

ソーダライト −南アフリカ産

 

ひと頃、ソーダライトグループの鉱物に興味を持って集めたときがあった。ソーダライト(方ソーダ石)とラピスラズリ(青金石)とアウイン(藍方石)とは産状も違えば、物性も質感も異なる、と当初考えていたが、標本が集まるうちになんだかよく分からなくなった。
ソーダライトは珪酸分に乏しいアルカリ岩中に産するもので、日本には出ない。世界的にも特定の地域にのみ産する。しかしあるところには至極大量にあって、標本としても廉価である。ラピスラズリは特殊な苦灰質変成岩中に出来るため、ソーダライトより産地が少ない。あるところには(世界でほんの数ケ所だが)やはり大量にあるが、貴石としての需要が高いし主要産地が僻地のため、ソーダライトほどには安くならない。アウインはさらに特殊なもので、大塊で産することがなく用途が限られる。この中ではもっとも希少で標本価格も高い。

だが標本としていったん手元に来てしまえば、希少性とか本来の地質的な産状の違いは見えにくくなる。というか、標本同士の類似や違いの方がより高いウェイトで訴えてくる。すると、これらの鉱物は言うほど違いがないのではないかという気がしてくるのだ。
ことにこの数年、アフガニスタンやタジキスタン(パミール)やミャンマーなど、つまりラピスラズリの産地からこの3種の標本が揃い踏みで行進してくる感じがあって、本質的なその違いとは一体何なんだろうと迷ってしまう。いまのところ3役手を携えているのはラピスラズリ産地(変成帯)だけのようだが、通常ラピスラズリを伴わないソーダライトの大産地に、今後もラピスラズリやアウインが出てこないと言い切れるのだろうか。
(※ 2014年現在、従来ラピスラズリと標識されてきたサー・エ・サン産の標本でこれまで分析にかかったものはすべて、実質的に硫化性のアウイン(アウインとラズライトの固溶体で成分的にアウイン寄り)であることが分かったという。ラズライトは目下、自然界では仮想的な端成分の鉱物種であるのかもしれない。cf.No.250

上の標本はソーダライト。メーン州リッチフィールドは特殊なアルカリ岩の地相が分布することで、19世紀の半ば頃から東海岸の化学者やコレクターに知られた土地である。アルバイトを含むイーレオライト−シエナイト系のその岩体は今日霞石閃長岩と呼ばれるものだが、リッチフィールドを含む地域に特有の、黒雲母を伴う特徴があるため、19世紀の終わり頃、リッチフィールダイトと名づけられた。
大量の霞石、カンクリン石が採集でき、また稀ではあるが方ソーダ石も産した。今日の目で見ると、当時カンクリン石とされたものは実は方ソーダ石で、霞石とされたものが実はカンクリン石であった、といった誤認はあったようだが、考えようによっては、これらの準長石類はいずれもよく似た性質のものであるといえるかもしれない。
この標本は19世紀の終わりに採集された。今日程度のいいものはなかなか拾えないそうである。青色がやや暗く落ち着いており、破面は平坦な面が観察できて結晶質であることをよく窺わせる。多少の透明感がある。いずれも典型的なラピスラズリにない特徴だ。

下の標本は南アフリカ産。詳しい産地は不明だが、大きな塊が大量にあるらしく、ラピダリー加工用にかなり安価で出回っている。

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