625.トルコ石 Turquoise (USA産)

 

 

Turquoise トルコ石

トルコ石 (珪酸分が浸みている、母岩は珪岩)
-USA、ネバダ州ランダー郡インディアンマウンテン鉱山産

Turquoise トルコ石

トルコ石 (これも珪酸分が浸みている)
−USA、ネバダ州ナイ郡ロイストン鉱山産

今日、アメリカでトルコ石の採れるところといえば、事実上南西部の、ネバダ州、アリゾナ州、ニューメキシコ州、コロラド州あたりに限られる。ネバダ州はなかでももっとも生産量の多い州である。ランダー、ナンバーエイト、カリコレイク、レッドマウンテン、ローンマウンテン、パイロットマウンテン、アジャックス、イースターブルーといった名の知れたトルコ石はいずれもネバダ発のブランドだ。

アリゾナ州と同様にネバダ州でもヨーロッパ人が進出してくる以前から、先住民の間でトルコ石が採掘されていた。今日のフォックス、クレセント・ピーク鉱山あたりは特に盛んに掘られた形跡がある。現代のプエブロ人の祖先とされるアナサジが住んでいた時分(数世紀前)には首飾りなどの装身具や祭祀用のアイテムが作られた。ただ、ナバホやズニ族などアリゾナの諸族が後に取り入れた銀細工のような、いわゆるインディアン・スタイルのデザインはネバダでは発展しなかった。そのためパイユートやショショーニ族の工芸品が注目される機会はアリゾナ発の作品に比べて少ない。

ヨーロッパ人によるネバダ産トルコ石の発見は1870年代のことで、コロンバス近くの産地はその時点で白人がアメリカ大陸に見つけた2番目のものだった。その後20世紀に入るとトルコ石のブームが何度か訪れ、高騰した原石の価格は、そのたびに地元の探鉱家を惹きつけて新たな産地の開発に向かわせた。こうして大小100以上の鉱山が発見されることとなったのだ。20世紀の初め頃、トルコ石鉱山はエスメラルダ郡、ミネラル郡、ナイ郡に集中していたが、やがて北方のランダー郡などでも鉱脈が見い出された。
1960年代から70年代のブームの時にはネバダ全土がトルコ石探索の対象となった。もっとも有名な鉱山のひとつ、ランダー郡のカリコ・レイクはこの時期に発見された。干上がった湖の底にあるこの鉱山の石は亜鉛分を豊富に含み、明るいアップル緑色や美しい黄緑色を呈する特徴がある。

一般にネバダ産のトルコ石は色あいのバリエーションが多く、青、青緑、緑青、緑、それぞれの色がそれぞれの価値を認められているのだが、カリコレイクのネオンがかった独特の黄緑色は特に評価されてコレクターアイテムとなっている。もっともこのガスペアイトのような色の石は、鉱物学的にはファウスト石に属するケースもあるという。(⇒No.626

 

ネバダのトルコ石産地は大陸のプレート・テクトニクスが形成する断層線に沿って分布しており、発達した断層地質が抱える空隙において、断層を形成した造山活動に由来する低品位銅鉱床(亜鉛や鉄をも含む)の銅成分と、堆積岩層に含まれる豊富なアルミニウムやリン酸分とが出会って、トルコ石の鉱脈となったものである。ネバダの乾燥した気候がその生成を助長した。
ネバダ産のトルコ石の特徴のひとつは非常に硬いものが多いことであるが、これは珪酸分を含んだ熱水がトルコ石に浸透して珪化を進めた結果である。アメリカでは珪酸によって硬化したクリソコラ(珪孔雀石)が「ジェム・シリカ」と呼ばれて人気を集めるが、トルコ石の場合も同様に珪酸分による高品質化が実現しているわけである。
また断層帯における鉱化作用は同時に金や重晶石の鉱床を作ることが多い。そのためトルコ石鉱山の近くにはこれらの資源鉱床が存在する例が多く、古いトルコ石鉱山が後に金山として大規模に再開発されたり、重晶石鉱山に転換されることも珍しくない。ただ前の項でも述べたが、金山となった場所ではトルコ石の産出はもはや望み薄である。(⇒No.621No.623

 

アメリカでは(日本でも)トルコ石の人気が高く需要も多いが、国内の鉱山経営はどこも小規模なものにとどまっている。数人程度の作業者が丁寧に掘り出して、宝石級の部分を手作業で分離することが必須だからである。ブルドーザーなどの重機を使った採掘は採算性を見極めるのが難しく、また選鉱過程で原石をだいなしにしてしまう可能性が高い(鉱脈以外の表土を除去するにはもちろん非常に効果的である)。リー・ハンドやエドガー一家のような往年のトルコ石王たちでも鉱山経営は家内的であった。今日では環境法の絡みもあり、閉山時の原状回復にかかる費用的リスクを負ってまで大規模採掘を試みる事業家はまずいない。
こうした事情からアメリカ産トルコ石の供給は需要を下回っており、インディアン・ジュエリーとして製作されている製品の素材は外国から、最近はとくにチベットから輸入されることが多いという。アメリカ産トルコ石の価格は高止まり傾向にある。

 

上の画像はランダー郡インディアン・マウンテン産の石。1970年にショショーニ族の羊飼いが発見した場所である。羊を連れて丘の斜面を下っていたときに、つまづいて転んだところにトルコ石の脈があったと言う。その後インディアン・ジュエリーに用いられているが、小規模な鉱山で流通量は少ないようである。

 

下の画像はロイストンと呼ばれる石。二次大戦後、ティファニーが自社ブランドのトルコ石原石として使ったことで知られる。実際にはナイ郡の複数の鉱山に産する石がロイストンの名で売られている。地元のトルコ石ハンターが採り貯めた原石が1970年代にまとめて売りに出されたとき、ある年老いた(その頃は若かった)ラピダリストが手に入れて自分で磨いた。趣味でトルコ石を掘る人があり、趣味で原石をカットして磨く人がいる、アメリカらしいお話だと思う。

 

いずれも珪酸分を含んでいく分か珪岩化している。

 

鉱物たちの庭 ホームへ