668.海王石 Neptunite (USA産)

 

 

Neptunite 海王石

Neptunite 海王石 ネプチューン石

ネプチューン石 -USA、カリフォルニア、サン・ベニト産

 

グリーンランドはナルサルスクの、ユージアル石を伴うかすみ石閃長岩帯が Type Locality の鉱物。1893年にフリンク博士によって記載され、Neptunite と命名された。ローマ神話の海神ネプチューンに因むが、というのもこの鉱物はエジリン(錐輝石)に似て、エジリンに伴って見つかったからである。エギル(エージル、アエギル)は北欧神話の海の冥王。和名は海王石で通っているが、それならエジリンだって海王石のはずだ。

今日原産地の標本はあまり出回っておらず、もっぱら(旧)ベニト石ジェム鉱山が標本一手卸元の趣きを呈している。実際、かの地ではソーダ沸石に次いでもっともありふれた種であり、出現確率はベニト石の10倍はあろう、といわれる。数センチサイズの結晶も珍しくなく、たいてい柱状に長く伸びているが、ずん胴のものも見出される。
楽しい2(1997年刊)には、「もっぱらベニト石の引立て役で、(ベニト石の)標本の価格に海王石の分が含まれないのが気の毒だ」と書かれているが、その後鉱山の状況が様変わりしてベニト石の希少性がさらに昂じたからであろう、近頃は海王石を主役に据えた単体標本が頻々と出回っている。(cf. No.29 ベニト石
良品の値段はかつてのベニト石を彷彿させる。しがないコレクターとしてはいささか行き過ぎでないかと思う。鉱物の美しさを讃えるにやぶさかではないが、市場経済に乗ってことさらな付加価値を金銭に反映されると我々は窮する。海底の秘めたる宝、野の百合であってもらいたい…

海王石は漆黒の石炭色にみえるが、小さな結晶に強い光をあてると分かるように、暗赤色が基調である。これはマンガン重石にも似た色だ。とすると発色にはマンガンが寄与しているのか。多量のクロス閃石を含むと赤茶色がかってくるという。
組成式 KNa2Li(Fe2+,Mn2+)2Ti2Si8O24。マンガン優越種はマンガン海王石と呼ばれ、海王石より赤みが増す。
双晶は(301)面を境界にして生じるが、まれに(001)面を基準にするものがあるという。ただしほんの数例しか知られていないとの添え書き付きで、コレクターの射幸心を煽る。

補記:クロス閃石は、現在の分類基準では「藍閃石−鉄藍閃石−リーベック閃石−苦土リーベック閃石」を端成分とする角閃石の中間亜種。

補記2:マンガン海王石のチタンをバナジウムで置換した鉱物が「わたつみ石 Watatsumiite」で2001年記載。わたつみ/わだつみは記紀に記された古代日本の海神。イザナギ・イザナミの神の間に生じた。大綿津見神、大海神などと記す。

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