5.菱マンガン鉱 Rhodochrosite (日本産) |
日本に産出する鉱物標本で(審美的に)世界的なものというと、青森県尾太鉱山の菱マンガン鉱が最有力候補のひとつに挙げられる。ある鉱物誌のバックナンバーを見ていると、20年ほど前にアメリカの鉱物ショーにこの産地の標本が沢山出品されて大方の喝采を浴びたという記事があった。
写真の淡いピンク色の標本は、その頃採集されたもの。私はあまり好かないけれど、この産地には珊瑚のように赤いものがあって、より貴重視されている。採集に行った人の話では、ブクブクと泡立ったような真っ赤な本鉱が、暗がりの中で坑壁をべったりと塗り込めていたそうで、うす気味悪いほどであったという。(1999.3)
追記:2000年頃にも日本の鉱物商さんがやはり尾太産の本鉱標本をツーソンに持っていって好評を博した。新産はもうないはずだが、往時の標本を大量にストックしている愛好家がどこかにおられるとみえる。
追記2:稼行当時の尾太鉱山の様子は、夢の又三郎著「少年Aの採集記 第2集」(2017) 18話に詳しい。1960年代と思しいが、弘前駅からバスで砂子瀬に向かい、集落のはずれの鉱山事務所で採集伺いを立てると、8キロ先の鉱山までトラックに乗せて連れていってくれた。豪奢な寮に泊めてもらい、翌日坑内を案内されてあちこちで標本を採集、クライマックスは誰もが目当てにやってくる菱マンガン鉱の晶洞へ。採鉱中に偶然発見された穴をコレクターのために保存してあるものだという。一人5分の時間制限で採集が許され、少年Aさん大満足。…夢だなあ。