679.サフィリン Sapphirine  (カナダ産ほか)

 

 

サフィリン(淡青緑色)と金雲母 −グリーンランド、フィスケナエスセット産

サフィリン(塊状)と金雲母 −カナダ、バフィン島、レイク・ハーバー、Co-Op鉱区

サフィリン(結晶)と金雲母 -マダガスカル島、アンドロイ産

 

サフィリンは一般に青〜シアン色系の色を示す鉱物で、その色合いから サファイヤに因んで命名された。
ギーゼッケはグリーンランドに7年間(1806-1813)滞在したが、その間の行動を日記に細かく記録しており、1809年にフィスケナエスセット(ケケルタルスアットシアアト)を訪ねたとき、村の南の入り江で薄青色の標本を採集したことが分かっている。彼はこれを Cyanite (藍晶石)と記し、後にエメラルドともしたが、採集物の目録にはドイツ語で blauer Diamantspath/Sapphirine (青いダイヤモンド様のスパー /サフィリン)と記載した。おそらく破面がきらきらとよく煌めいたのだろう(スパーとは、割れやすい、ガラス光沢の結晶状の鉱物の意)

成分分析は1819年にフリードリッヒ・シュトロマイヤーが行ったのが最初で、その後19世紀後半になってセオドル・ロレンゼン(1855-1884/ 1897年にフリンクが記載したローレンツェン石に名を残す)らが化学的、結晶学的、光学的性質を明らかにした。そして1889年にコペンハーゲン大のニルス・ビーゴ・ウシン(Ussing)がより詳細な検討を行った。辺境地グリーンランドの鉱物標本はなかなか手に入りにくいもので、資源調査などの名目で調査隊が入り、集中的な研究が行われた節目節目にこうした学問上の進歩が訪れるのであった。
原産地のサフィリンは代表的な淡青色、緑色(ギーゼッケが「エメラルド」とみたもの)、灰色のほか、ピンクがかった灰色、暗青色、青緑色、紫色などさまざまな色を呈する。組成式  (Mg,Al)8(Al,Si)6O20
変成鉱物として暗緑色の苦土スピネルの縁部やコランダムの縁部に生じるものが報告されている。もちろん単独でも生じ、まれに自形結晶の発達したものが認められる。頑火輝石やホーンブレンド、礬土直閃石(Gedrite)、金雲母などを伴う。

上の標本は原産地フィスケナエスセット産のもの。
中の標本はカナダの極北、ヌナブト準州バフィン島産のもの。金雲母を伴う粒塊状のサフィリンである。バフィン島はグリーンランドやアラスカに劣らない厳寒僻遠の辺境地。かつてフレーザー(1854-1941)は金枝篇に、「バフィン島のエスキモーは、晩秋になって暴風が陸の上を吹きまくり、凍った海をなおも軽くしばり止めている氷の足枷をうちくだくとき、海に浮ぶ氷塊が物凄い音をたててぶっつかっては飛び散るとき、また氷の塊が乱雑に積み重なってゆくとき、彼らは禍いを帯びた空に棲む精霊の声を聞くという。」(岩波ダイジェスト版4巻P140)などと書いた。
こんな土地で鉱物標本が採集されるのは、やはりなにか学術的な調査が行われたときということになるが、この標本は 1975年にGSC(カナダ地質調査局)がフィールドに入って採集したもので、その7月ボブ・ゴー(Gault)の手による、と標本ラベルに記されてある。調査資料はこのサフィリンの色を「ロビンエッグ色」(こまどりの卵の色)と描写している。

下の標本はマダガスカル島産。現在市場に出回っているのはほとんどがこの産地のものである。自形結晶面が見えるサフィリンは以前はなかなか得難く、私が入手した頃は石博士が「珍しいものです。1点物です」と仰っていたのだが、今はわりと潤沢にあって、お値段も随分こなれている。ただ色目はあまり美しくなく、「サファイヤ」とは呼びがたい。

cf.No.680 コーネルピン、 ヨアネウムの標本(原産地)

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