718.ルビー/ゼードル閃石 Ruby-Gedrite (グリーンランド産)

 

 

ジェドライト中のコランダム(ルビー)石 -グリーンランド、ヌーク、フィスケナエスセット産

 

先日、機内映画で「LIFE !」というのをやってたので、見た。面白かった。私が気になっているグリーンランドが舞台のひとつになっていて、美しいフィヨルドや荒涼とした土地の風景、ヌークに飛ぶグリーンランド航空の赤い機体やを見れたこともよかった。アイスランドの風景も素晴らしかった。いずれも現実世界ではなかなかご縁がないところ・モノである。
私は子供の頃から「地理」が好きで、どうも北の国や南の国や、要するに今こことは違う土地に憧れてしまう。もちろん、ほんとうに大切なのは今ここであろう。でも、憧れもまた人の本質だ。
映画の中で、雪豹を追ってヒマラヤの高所に望遠レンズを据えたカメラマンのショーンは、しかし雪豹が現れてもシャッターを切ろうとしない。「いつ撮るの?」と主人公が訊くと、「撮らない時もあるんだ。もしその瞬間がよかったら、ほんとうに自分にとって…、カメラに気をとられたくない。ただそこにいたい。…ひたすらそこに、じかにここに。」と言う。だけど、そのショーンにしても、その場所・その瞬間を求めて、はるばるアフガニスタンまで旅をするわけである。

というわけで標本はグリーンランド産のルビー。母岩はゼードル閃石(Gedrite/ジェドル閃石/礬土直閃石)。直閃石に対して Mg2Si2⇔Al2Al2 の置換が行われた相に相当する。
グリーンランドのルビー(コランダム)がいつ頃から知られるようになったかははっきりしないが、初めて大量に発見されたのは1960年代中頃であったという。Wiki を参照すると、1966年のグリーンランド/デンマーク地質調査局(GEUS)の調査で、フィスケナエスセット(ケケルタルスアットシアアト)サフィリンコーネルピン産地から宝石級のルビーが見つかったとある。
その島は後に「ルビーの島」と呼ばれるようになった。そして70年代に宝石資源としての可能性が調査された。島のルビーの色調は薔薇赤色ないし鳩血色、あるいは暗赤色や稀に紫赤色で、不透明なものがほとんどだが透明なものもあり、ごく稀に無色透明のものもあった。クロムの含有率が通常よりも高く、3%に達する。強い蛍光性があり、殊に長波紫外線によく反応する。
宝石としてはタイ産ルビーの品質に似ているが、しかし20世紀中は実際に開発されることはなかった。なにしろ極圏に近い寒冷地であるし、同時期に発見されたアフリカの産地(タンザニアのウンバ峡谷やケニヤのタイタ・ヒル)と比べると、採掘コストが相当に嵩むことが予想出来たからである。
しかし 21世紀に入って再び脚光を浴び、2004年頃から採掘の準備が着々と進められた。鉱山会社が設立され、2007年から試掘が始まり、今年の3月には向う30年間の(産地 Aappaluttoqでの)独占採掘権が認められた。しかし住民との折衝など、本格稼働にはまだ課題が残っているようだ。
近年グリーンランドの鉱産資源(鉄鉱石や原油など)は各国から注目されているが、低コスト労働力の導入が見込める中国資本の誘致が進められているらしい。グリーンランドの総人口は約5万7千人。ヌーク(旧ゴッタアブ/ゴッド・ホープ)は同島最大の都市で約2万人が住んでいる。そこに数千人規模の労働者受け入れが構想されているのだとか。(cf.No.681)

映画 Life ! の主人公は家族のために稼がねばならないので、旅や冒険とは無縁の生活を送ってきた。そのせいか、自分が実際には出来ないことを空想の中で派手に想像する癖があった。空想が始まるとすっかり上の空で、こっちの世界をお留守にしてしまう。そんな彼がショーンを探して、ライフ誌のモットーさながら、非日常的な時間を生き始めるのが映画の見どころ。
「世界を見よう。危ないめにあってもいい。壁の後ろを見よう。もっと引き寄せよう。知りあおう。感じよう。そのためのライフ(人生)だ。」(TO SEE THE WORLD. THINGS DANGEROUS TO COME TO. TO SEE BEHIND WALLS. TO DRAW CLOSER. TO FIND EACH OTHER, AND TO FEEL. THAT IS PURPOSE OF LIFE.)

同じように私にしても、エスキモー服を着てグリーンランドに犬橇を駆っている自分を空想したり、コクチャ峡谷の高所に蒼天の青い石の鉱脈を追う自分を夢見たりすることがあるんである。まあ、まずいかないだろうなぁと思いつつも、そういう想像をしながら生活を続けている。ライフってそういうもんで、パウロ・コエーリョの小説ではないけれど、叶える気のない夢を見続けることも実は大切なことだ。それで均衡が取れる。
ついでながら機内では吹き替え版を観たが、帰国後 DVDを借りてオリジナル音声で観なおした。私としてはオリジナル版を強くお勧めしたい。クイントエッセンス・オブ・ライフなんて言葉が出てくる。クイントエッセンスは錬金術にいう第五元素、夢の完全物質である。そんな幻のような希みのない絵空事こそ、鉱物ライフの真髄のはずだ。

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