729.カラベラス鉱 Calaverite (USA産) |
砂金を探すとき、目印にされるのはやはりその山吹色であろう。川砂の中にぴかりと光る優美な黄金色を見つけたときの喜びは、ゴールド・ハンターの心の糧であるとさえいえる。一方、金と間違われやすい鉱物に、風化した雲母や黄鉄鉱、黄銅鉱などがあるが、これらは輝きが白っぽかったり、黄色がやや濃すぎたりすることで、また金が持つ展性を示さないことから、慣れた者には金でないと見破られることになる。
その判断が妥当であるのは、金は元素鉱物として単体で産するのが普通だからだ。(たいてい若干量の銀を固溶したエレクトラムになっており、銀分が多いと白みがかるが展性は保持している。)
ところが、世の中には稀ながらテルルと化合した金の鉱物があって、それらが金鉱脈を形成している場合がある。トランシルバニアでは
18世紀中頃にこの種の鉱物(シルバニア鉱やナギャグ鉱)が発見された。これはごく特殊なケースと考えられたが、1860年代になるとカリフォルニアでもテルル化金鉱が発見された。そして鉱物学者のジェンスは
1862年頃、カラベラス郡スタニスラウス鉱山産の鉱石の中に、シルバニア鉱に特徴的なへき開による明瞭な条線を持たないものがあることに気づき、1868年、別種としてカラベラス鉱と名づけた。
それでもシルバニア鉱やカラベラス鉱は稀なものに違いなかった。(砂)金といえば黄金色、それがゴールド・ハンターの合言葉だった。
ボブ・ウォマックがクリップルクリークの土壌に金が含まれることに気づいたとき、すでにシルバニア鉱やカラベラス鉱はゴールド・ハンターたちの目に入っていた。しかし彼らはそれを黄鉄鉱か白鉄鉱か、いずれにせよ素人の目をだます
fool's gold (愚者の金)の類と判断して顧みなかったのだ。
それでも具眼の士はいるもので、ボブがやや捨て鉢にコロラド・スプリングスの店先に置いた鉱石サンプルを見た誰かは、もしかするとあのテルル化金かもしれないと察して密かな探索を始めた。それが1891-92年のゴールド・ラッシュに結びついたのだった。(cf.
ひま話 クリップル・クリーク 補記1)
ちょうど同じ頃、西オーストラリアでも同様のことがあった。1893年にカールグーリーで金が発見されゴールドラッシュになったとき、大量の fool's gold がズリ石として廃棄され、建築用資材に使われたり、道路の補修材に利用された。実はこの fool's gold は金を含むカラベラス鉱なのであった。1896年にその正体が判ると、第二のゴールドラッシュが起こった。人々は夢中になって町中を掘っくり返したのだ。
カラベラス鉱は組成式 AuTe2。通例 2-3%
の銀を含むテルル化金である。シルバニア鉱はカラベラス鉱の金の過半が銀に置換されたものに相当し、組成式
(Ag,Au)Te2
。エレクトラムがそうであるように、金と銀とは容易に交代するため、両者は密接な関係にある。ジェンスが観察したように、へき開面の条線は有力な識別手段になりうるが、厳密には成分分析をしなければ分からないという。
クリップルクリークではどちらも出るが、金色が勝った結晶はカラベラス鉱と、銀色が勝った結晶はシルバニア鉱と標識されるのが通例だった。
ちなみにテルル化金を含む鉱石をローストすると、テルルが気化して後に金が残る。つまり鉱石のヤケ肌に金の山吹色が光るのである。クリップルクリークではローストした低品位鉱石を観光客向けに提供していたことがある。よく探せば金の小さな粒が見えるから、愛好家の糧にはなるわけ。
(テルル金銀鉱の類 -ナギャグ鉱、シルバニア鉱、ペッツ鉱…- は硝酸に溶けて金を残す。)
上の標本はクリップルクリーク、クレッソン鉱山産の標本。白色の石英(水晶)と紫色の蛍石結晶を伴う。業者氏の弁では 30年ほど前にクリップルクリークで働いていた鉱夫が採集した中のひとつ。私の知るところでは当時クレッソンは稼動していなかったはずだが、まあ、私が知らないことなどいくらでもある。金色というより銀色の結晶だが、へき開が不明瞭でもあるので、標本ラベルに従っておく。
補記:ちなみにカラベラスはスペイン語で「頭蓋骨」の意。スペインの探検家ガブリエル・モラガが、ある川の岸辺で多数の頭蓋骨を発見して、カラベラス川と命名したのが地名の起こり。