795.モリブデン鉛鉱、ミメット鉱 Wulfenite & Mimetite (メキシコ産)

 

 

Wulfenite Mimetite

モリブデン鉛鉱(黄橙色)とミメット鉱(オリーブ色)、母岩は褐鉄鉱(limonite)
−メキシコ、マピミ、オハエラ鉱山産

ミメット鉱(オレンジ色ぶどう状)とモリブデン鉛(オレンジ色板状)
-USA、アリゾナ州ジラ郡79鉱山レベル4産

ミメット鉱(先端が錐形の六角柱状結晶) −USA、アリゾナ州モハブ、ローハイド鉱山産

 

モリブデン鉛鉱 PbMoO4 は鉛のモリブデン酸塩で、鉛鉱床の酸化帯に生じる二次鉱物である。普通、板状の結晶をなすが、底面が非常によく発達する傾向があり、しばしばプレパラートに載せるカバーガラスのような極薄刃状の外観を呈する。而してその縁の部分はピラミッド面を彷彿させる傾斜を持って結晶形を特徴づける。柱状(錐状)あるいはピラミッド状にもなるが、どちらかといえば一般的でない。
No.528で述べたが、本鉱を最初に報告したのはオーストリアのヴュルフェン神父で、産地はカリンティア地方のブライベルクだった。この産地の標本は薄板状ないしキャラメル状で、色は黄色系(〜黄褐色)のため、「黄色い鉛の鉱石 gelbbleierz」と描写された。黄鉛鉱と訳され、加藤博士もこの名を採用しているが、ミメット鉱も同じ名で呼ばれるので、たいへん困る。「褐色の鉛の鉱石」が褐鉛鉱と呼ばれて、バナジン鉛鉱なのかデクロワゾー石なのかよく分からないのと同じことである(cf.No.164 ※2)。
色を言えば、アリゾナ州レッド・クラウド産のように赤いものもあるし(クロムを含むためと推測されている)、古典標本のチェコ、プシーブラム産は灰色であって、いずれも黄鉛鉱とは称し難い。ちなみに後者の灰色・両錐ピラミッド形の結晶を見ると、灰重石ポウエル石と同じ結晶構造であると聞いてなるほどと頷かれる。(だけども、カバーガラス形の灰重石ってあるのかしらん?)
なにしろ本鉱の結晶形は構造からすると奇妙なところがあり、なかには異極晶の外観を示すものさえある(Dana 8th は双晶のためか、としている)

モリブデン鉛鉱は風化(酸化)が地表深部まで進んだ乾燥気候帯に多産し、アメリカ南西部やメキシコに著名な産地がいくつもある(ほかにモロッコやツメブ)。深所生成の熱水鉱床に多く、浅所生成の熱水鉱床に産する例は少ないと言われるが、モリブデンの初生鉱物を伴うことはマレで、成分をなすモリブデンの起源はたいていよく分からない。

オハエラ産の標本は 1960年頃から出回り出した。5cmに達する薄板状、厚板状、両錐ピラミッド状の結晶があり、色は無色から緑色、黄色、橙色、赤色、茶色などさまざまである。明るい赤味を帯びるものは(クロムでなく)リサージ(酸化鉛)のインクルージョンを含むためと言われている。2003年頃には黄橙色キャラメル状の本鉱がオリーブ色のぶどう状ミメット鉱の上についた美麗標本が出て話題になった。
上の標本は 2007年の12月中旬頃にサン・ホアン・ポニエンテ地区で発見された晶洞から大量に採集され、翌年のツーソンショーに持ち込まれたものの一つ。事前情報のなかった突然のボナンザにショーは興奮のルツボと化した(とは大袈裟な定型表現か)。やはりオリーブ色のミメット鉱と黄橙色の本鉱との組み合わせだが、細長く伸びた四角錐形の晶癖は、かつてなかったものである。「とりあえず確保」でありましょう。このエリアからは、その後、厚板状の結晶標本も出た。

ちなみにミメット鉱 Pb5Cl(AsO4)3 も長錐状結晶で産することがあるが、こちらは燐灰石系の鉱物なので六角錐形となる。ミメット鉱はたいていの鉛二次鉱物と共産例が報告されている。一方モリブデン鉛鉱からみても、ミメット鉱は相性のよい共産鉱物であるらしい。

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