806.キンバーライト Kimberlite (RSA産)

 

 

 

kimberlite

右:チタン鉄鉱/ 左:パイロープ(キンバーライト中)
- RSA、オレンジ自由州、モナスタリー・ダイヤモンド鉱山産

 

 

キンバレー岩は炭酸ガスなどの揮発性成分を多く含む火山岩で、超高圧環境(上部マントル付近)で生成されたとみられるかんらん岩エクロジャイトなどを捕獲岩片として取り込んでいる。そしてこれらの中に数億年〜数十億年前に出来ていたと思しいダイヤモンドが含まれていることがある。
そこでキンバレー岩(ないしその元であるマグマ)は地下150-200km 程度の深部から各種岩石を巻き込みながら上昇してきたと考えられるのだが、地表付近では周囲の地質にほとんど熱影響を与えていないことや、垂直に延びる円筒状のパイプを形成していること、ダイヤモンドの中には(低圧高温環境で進行するはずの)融蝕作用があまり進んでいない美麗結晶が認められることなどから、その生成についてさまざまなことが言われている。

すなわち、地下深部にあってガス成分に富んだ岩質が、いずれ地殻の弱い箇所を辿って上昇してきたのであろうが、まるで弾丸が標的を撃ち抜くように地殻を突き抜いてパイプ状の噴出孔を形成したのだろう、圧力減少に伴って気化した成分は地表面で爆発的に解放されただろう(破壊的に噴出しただろう)、地表付近ではすでに溶融状態(マグマ)でなく低温の結晶混合物に近い状態になっていただろう、パイプは通常小規模(径1キロをこえない)であり低圧高温状態で経過した時間はかなり短かったであろうから、上昇速度はきわめて速かっただろう、といったことである。
言い換えると、少量のマグマ(ないし結晶混合物)が局所的かつ瞬間的に長い距離(低圧領域である 100km 以上)を吹き上がったために通り道の岩石に急速に熱を奪われて、現にある地質を形成したというのである。
こうした考えにどの程度の妥当性があるのか私は分からないが、パイプ自体が地表に隆起地形を作るわけでもなく、周囲の地質を歪めるわけでもないとすれば、よほど不思議なことが起こったのだと考えないわけにいかない。低温超高圧のガス成分が先駆けとなって吹き抜け道を綺麗に開き、その後を追ってキンバレー岩(ないしマグマ)がトコロテン式に押し上げられて穴を埋めたのではないかといった想像をする。ただしこれでは地表から余分に押し出された分がどこへ行ったか解くことが出来ない。キンバレー岩は風化しやすくて地表に露出した部分は数千万年くらいの間にすっかり拭われてしまうのだろうか。
ちなみにキンバレー岩の上昇速度は少し以前には「地下100kmより浅いところでは時速100km以上」と驚異の念とともに語られていたが、最近は1,000-2,000km/h つまり超音速であったとの説が優勢なようである。ほんの数分で地表に達したことになる。そんなことがありうるのだろうか。

標本は南アフリカ(RSA)のダイヤモンド鉱山に出たもの。18世紀以前にはダイヤモンドはもっぱらインド産(またはボルネオ産)だったが、1720年代以降19世紀にかけてブラジルが主産地となった。そして1860年代に南アに大鉱床が発見されると急速に市場を席巻した。やがてアフリカ大陸のほかの国々でも鉱床が発見され、ダイヤモンドといえばアフリカという状況になった。実際、1889年から1959年にかけて世界のダイヤモンド産量の98%は 南アを始めとするアフリカ産が占めたという。その流通をただ一つのシンジケートが押さえていたことはよく知られている。
「モナスタリー農場」は比較的小規模のパイプ鉱床で、ダイヤモンドの市場価格を見ながら稼働と休止とを繰り返してきた。
ある年の鉱物ショーで、懇意の標本商さんが私のために持ってきたと出して下さったものだが、実はなぜ私が興味を持つと思ったのか、いくら考えても分からない。また、「出所は訊かないで下さい」と先回りして釘を差されたことも腑に落ちない。私が標本の出所を詮索したことはそれまでなかったはずである。誰か他のひとと勘違いした? とはいえ、こういう時はありがたく引き取っておくのがお流儀であります。グラムいくらの値付けだったのが印象的で、まるで隕石かダイヤモンドのような扱いだと思った。

チタン鉄鉱パイロープともキンバーライトに伴う指標鉱物としてよく知られたものである。パイロープは色目がオレンジがかって宝石質とはいえないが、漱石が「深き光を暗き底に放つザクロ珠が収めてあった」(虞美人草)と表現した雰囲気は持っているような気がしなくもない。もっとも、漱石のザクロ珠はボヘミアン・ガーネット(パイロープ)だと勝手に信じているからそう思うだけかもしれないが。

補記:キンバレー岩は必ずパイプ状で産するわけでなく、南アには亀裂を埋めるように入った産状も知られている。