875.オーケン石 Okenite (インド産)

 

 

 

okenite オーケン石

Okenite

オーケン石(綿帽子状)、濁沸石・ガイロル石・ぶどう石等を伴う 
−インド、ムンバイ周辺(prob.マラド-クラール採石エリア)産

 

 

オーケン石はグリーンランドのディスコ島(クドリサット)を原産地として報告された鉱物である。1828年、ドイツの F.v.コッベルが Ockenite として示し、2年後に Okenite と改綴した。ミュンヘン大学(当時)の博物学・自然哲学者ロレンツ・オーケン (Oken/Ocken)(1779?-1851)に献名されたもの。カルシウムの含水珪酸塩で、玄武岩の空隙に白色〜青白色の繊維状集合塊として産した。
由来について詳しいことは分からないが、当時はカール・ルートヴィヒ・ギーゼッケ(1761-1833)の採集したグリーンランド産標本がヨーロッパ各地で盛んに研究されており、おそらくその成果の一つと思われる(cf. No.676, 677, 678)。ギーゼッケは 1808年に犬橇を駆ってディスコ島周辺を回った。

その後、他の産地からも見出され、 1834年に Stromö 産が Dysclasite の名でコンネルによって、 1859年にフェロー諸島 Bordo 産が Bordite の名でアダムによって報告されたが、いずれもオーケン石であった。
インドでは 19世紀の後半にデカン鉄道の建設が始まって、ガーツ山脈を貫く一群のトンネルから魚眼石やさまざまな沸石類の美晶を輩出したとき(cf. No.441)、本鉱も一緒に報告された。そして 1970年代にインド産標本の大洪水が始まると、真っ先に欧米市場に現れた一つとなった。折から活況を呈していたボンベイ(現ムンバイ)周辺の玄武岩採石場や道路建設現場から、夥しい量の沸石類(本鉱、ガイロル石、魚眼石を含む)が採集されたのである。

80年代にかけて出回った標本はたいていプーナ(プネー)産と標識されていたが(プーナ産の沸石は一種のブランドであったから)、実際の産地はボンベイ近郊(やや北部)のマラド−クラール採石エリアだったという。日本では「うさぎのしっぽ」とか「ふわふわ・もふもふ」とか表現されるたんぽぽ綿帽子状のオーケン石は、キレイ・安い・かわゆ〜いの3拍子で、すぐに人気商品となった。
90年代に入ると郊外の都市化に伴ってムンバイ近郊の採石場が次第に閉止されてゆき、最後まで残ったパタンワディ採石場も 2002年に操業を終えた。直前の 2001年末にかなりの数のジオ標本が採集されたという。その後もストックと思しい品がそれなりに出回ったが、徐々に品薄となっている様子だ。
ムンバイから約150キロ北東の Shirdiからも綿玉状オーケン石が出るが、あいにく部分的に浸蝕を受けたものが多く、不均質で光沢が劣る。紫水晶上に、なんだかすっかり毛を毟られたようなデコボコした雪玉が載っている標本はまず Shirdi産である。(もっともムンバイ産にも、濡れそぼって互いにへばりついたように見える毛並みの乱れたオーケン石は珍しくない。)
このままいけばクラシック標本の仲間入りしそうであるが、なにしろインドのことだから、いずれあっと驚く美麗品を涼しい顔で出してきそうな気がする。

プーナ近郊の Chinchvad やずっと北東のアジャンタに近い Jalgaon から、綿帽子状〜放射針玉状をなすモルデン沸石の標本が出ていて時々混同される。針状のモルデン沸石はなんとなくオーケン石との違いが感じ取れるが、毛状の場合は肉眼での識別は困難とされる。
ただモルデン沸石は熱水作用の初期(高温期)に晶出し、オーケン石はかなり晩期になって(低温で)晶出するのがならいなので、産状がいくらか参考になる。モルデン沸石は晶洞縁部を微小繊維状の層をなして覆うことが多く、自形の発達した水晶上に載って出ることはないと言う。(しかし熱水作用が一度きりとは限らないでしょう?)
MR 34-2 によるとオーケン石とモルデン沸石とを結晶形で区別するには x500倍程度の拡大率が必要だそうだ。ルーペで見たくらいでは分からないということか。もちろん厳密にはX線回折試験や組成分析が求められる。

上の標本はプーナ産のラベルがついているのだが、ここはおそらくきっと多分、マラド-クラール採石エリア産と読み換えていいのだろう。晶洞をなす玄武岩の母岩は、標本を損なわないように、しかし余分な嵩と重量を極力そぐように丁寧に整形されている。古いインド産ジオ標本のお作法で、プロの技といってよい。自分でやったらこうはいかない。
この頃はダイヤモンドカッターで切り落としたような切断面の見える標本も多く出回っているが(No.874の感じ)、どちらが破損リスクが少ないかといえば、まあ切断した方であろう。手間もかからないし。

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