885.杉石・アルミノ杉石 Sugilite/Aluminosugilite (イタリア産)

 

 

Aluminosugilite

スギライト/アルミノ杉石 
-イタリア、リグリア、SP、ボルゲット ヴァラ、チェルキアラ(セルチアラ)鉱山産

 

 

杉石については No.256(南ア産)、 No.257(日本産) にトピックを書いた。
美しい紫色(ラベンダー色)の貴石として世に知られたのは、南アフリカの層状マンガン鉱床の深部に石英混じりの大塊が掘り出され、ラピダリー業界が売り出しにかかった 1980年前後のことで、まずヨーロッパに、ついで米国市場にその声価が問われた。そしてセルフケア/自己成長に意識的なニューエイジ層の支持を得てブレイクし、90年代には(ラリマーチャロアイトと共に)世界三大ヒーリングストーンの異名を奉られた。
米国ではスジライト(スージーライト)と呼ばれるので、また紫色の石だったので、日本のディーラーがウグイス色の国産杉石と同種の鉱物だと気づくにはしばらく間があった。No.257に記した笑い話も、当時は真顔で囁かれたものである。それにスージーライトと言われれば、スギさんでなく、まずはスージーさんの石と思うのがスジであろう。

鮮やかな紫色塊状の杉石は鉱物標本としても好ましいものだと思うが、90年代後半から2000年代前半にかけてはミリサイズの六角柱状結晶のついたウェッセルズ鉱山産の標本が稀に市場に出ていて、マニア垂涎の品だった。私も欲しかったのだけど、折り合いを探っているうちに時機を失して今日に至った。いつか溢れるように(そして安価に)出てくる日を待つばかりだ。
2013-14年頃にはヌチュワニンU鉱山から「毛髪状」の結晶が、絨毯のように折敷かれた標本が出回った。その後、繊維状結晶が平行束をなして絹糸光沢を示すもの、あるいはもこもこした小ブロックを作って群れているものも出てきた。以前にはあるとも思われなかったタイプである。杉石はミラー石や大隅石のグループに属する鉱物だが、これらも毛髪状・繊維状になるのだろうか。

画像の標本はイタリア、リグリア地方に出た杉石。No.773 に書いたが、リグリアは「ロングバンに匹敵する」といわれるマンガン鉱床地帯で、やはりというか、マンガンを含んで紫色を呈している。2015年に入手したものだが、産出報告は以前からあり、Dana 8th (1997)にはチェルキアラ産はアルミ成分に富み、Al2O3 で 9.7 wt% に達するとある。
同書では杉石の組成は KNa2(Fe3+,Fe2+,Mn2+, Al)2Li3Si12O30・nH2O と載っているが、現在は水分を省いた式が正。酸化式に直すと、0.5(K2O)+Na2O+Fe2O3(〜 Al2O3)+1.5(Li2O)+12(SiO2)のバランスである。仮に第3項はマンガンを含まず、鉄分とアルミ分だけとすると、鉄とアルミが等分に含まれる時、Al2O3は 5.1 wt%となる(鉄とマンガンは原子量がほぼ等しいので、マンガンを含んでいても計算結果は似たようなもの)。 9.7 wt% なら 90%以上がアルミ分に置換されているはずで、あれ? それなら別種になるんじゃないのか? 

…ということは鉱物学者さんも考えていたらしく、最近になって同地の杉石を分析してみると、めでたくアルミ成分が優越する標本が確認されて、新鉱物アルミノ杉石(IMA 2018-142)として記載された。IMA承認は2019年4月、筆頭申請者は杉石に縁りの山口大学の学者さんである。記載論文はこれから出るのだと思うが、ニュースによるとマンガン分は最大 4.4 wt%とのことだ。
杉石は発見から種の記載まで30年以上かかっているが、アルミノ杉石も少なくとも20年以上経って記載されたことになる。なかなか素性の分かりにくい鉱物のようだ。
画像の標本はもちろん杉石として入手したのだが、アルミノ杉石の公算大であろう。

ちなみに南アフリカ産の杉石もアルミノ杉石に相当するものがある、と mindat あたりで噂されている。肉眼での区別はまず不可能と思うが、記載論文にそのあたりの消息も述べていただけると有り難い。次はマンガン優越種が確定されるといいねえ。測定領域を絞れば 1ケくらいあるんじゃないかな。

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