884.石膏7 Gypsum/ Selenite (スペイン産) |
石膏に関するトピックをいくつか。
産状。
石膏の主な産状として塩湖に伴う蒸発堆積岩と黒鉱鉱床(噴気性鉱床)に伴うものとを
No.880(硬石膏)にあげた。前者は大陸に多く、日本の主な産状は後者である。
標本コレクターにとって有り難いのは堆積岩、特に泥岩中に形成される産状で、しばしば全面完全な自形結晶が育つ。団塊をなすこともある。No.882
はその例。
泥を排除して結晶が成長すると、無色透明のいわゆる透石膏(セレナイト)が生じるが、泥を巻き込んで成長する場合もある(No.883)。結晶の特定の領域に選択的に取り込むことも珍しくなく、矢じりや砂時計のような二等辺三角形のインクルージョンがみられたり、一見透明に見えても紫外線ランプで照らすとその部分だけが蛍光したりする(No.603)。
「砂漠のバラ(デザート・ローズ)」の名で知られる花弁状の集合物は、しばしば蒸発乾固した塩湖に見られるが、湖水や温泉からの沈殿・堆積で生じるともいう。
石灰岩を交代して産するときは、空洞を生じてその中に巨大な自形結晶をなすことがある。
含油層では水分を排除した硬石膏が生じ、これに加水作用が働くと石膏化する。
硫化鉱床では黄鉄鉱などが風化分解して硫黄分が硫酸イオンを形成し、カルシウム分に出合うと石膏が生じる。No.529
の青鉛鉱(鉛の硫酸塩)に伴う自形結晶はこれ。酸化帯でよくみられる。
有名産地。
石膏は時に膨大な量がまとまって産することがある。米国ニューメキシコ州のホワイトサンズ(白砂)は、沈殿した石膏が白い砂状・塊状になって地表一面に広がった土地で、乾燥した気候のために砂漠となっている。石膏砂は風に吹かれて風紋を作り、吹き寄せられて砂丘を作る。無色透明の石膏を月に因んでセレナイトというが、石膏の砂丘が月光に白く輝く夜は、これぞ「月の砂漠」といいたい気がする。
メキシコ、チワワ州のナイカ地方はセレナイト・タイプの透明剣状巨大結晶で名高い。ナイカ、ジブラルタル、マラビラスなどの鉱山は折々、数十センチクラスの標本を市場に出してきた。
ジブラルタル鉱山では 1910年にケーブ・オブ・ソード(剣の洞)と名づけられた巨大な洞の中に2.5m
に達する石膏結晶が発見されて、観光客の人気を集めた。メキシコにはこの種の洞穴が珍しくない。
米国デンバーの自然史博物館に石膏洞窟を再現した展示があるが、これは
1960年代にナイカ地方ソチル (Xochtl:花)洞から採集した大結晶を用いたもの。
2000年4月、エロイとハビエル・デルガド兄弟はナイカ地方の鉱山トンネルの延伸作業をしていて、壁面が石膏で覆われた高さ
8mに及ぶ洞に遭遇した。数日後にはさらに大きな洞が現れ、長さ
13m、幅 2m
の結晶が出てきた。世界最大記録である。洞内の温度は 55℃以上、湿度は100%あった。ニュース画像がネットで駆け巡ったので、地底の光景はすっかりお馴染となっている。一連の洞群はクリスタル・ケイブ(結晶洞)と名づけられ、直接アクセスできるトンネルが作られて一般に公開された。
最近、お金がかかりすぎるので維持を断念したとのニュースが流れた。洞はすでに水没したようである。
cf. No.281
ナイカ鉱山産
画像の標本はスペインのムルシア県ゴーゲル鉱山産。
1993年2月、ゴーゲルにある古代の鉄鉱山でトラックが入るほどの洞穴が見つかり、その中から出たという石膏の美晶標本が大量に出回った。後に産出箇所を特定する情報が伝えられたが、サン・チモテオ鉱山あるいはフンボルト鉱山と目されている。
市場に出た標本は夥しく、96年には別の洞からもヤマほど採取された。ムルシアの針状透石膏は
90年代を彩る標本として至るところで(ノミの市でさえ)目についたが、あふれ過ぎて値崩れし、潮が引くように消えた。一帯の古い坑道の壁面は、ポスト・マイニング・ミネラルとして生じた結晶に覆われて、その面積数百平米に及ぶという。未だ大部分が手つかずで地底に眠っているらしい。
硬度。
鉱物の鑑定手段のひとつとして、目的の鉱物の単結晶と硬さの基準となる鉱物とを、相互に擦りつけてキズの有無を見る方法がある。モース硬度計が有名だが、当初モースは硬度2の基準鉱物に結晶状の岩塩を選んでいた。しかし潮解性のある岩塩は取扱いが必ずしも便利でないので、やがて透石膏が用いられるようになった。石膏は異方性で一方向に完全なへき開を持つが、そのへき開面が硬度2である。結晶面によって硬度1.5〜2の違いがあるので注意。