920.ひすい輝石 Jadeite (ミャンマー産) |
20世紀前半にはライラック/ラベンダー色(淡赤紫色)のひすいも人気になり、今日では暗緑色、暗青色や(半透明)黒色のものにもある程度の市場性がある。翠〜暗緑色の発色はクロムでなく鉄分(2-3価イオン)による場合のあること、赤紫色はマンガン(2価)、黒色は炭素・高濃度の鉄分・クロム鉄鉱・緑泥石等の含有が示唆されている。青色系ははっきりしないが、チタンや鉄分の影響を指摘する説がある。
一方、世間でひすいといえば美しい翠色の半透明の宝石、少なくとも白地に翠色や緋色の部分を含む宝石で、18世紀来の伝統的なイメージが依然主流である。歴史的にひすいと称して市場に流通した宝貴石にはさまざまなタイプがあり、ひすいをジェーダイトと同義に解釈することは必ずしも妥当でない。古来和漢に言う玉(ぎょく)、または西洋に言うジェード(Jade)として総称的に扱うのが相応しい場合がある。
私見だが、ジェーダイトにフェルト状の閃石類を含むタイプの翡翠も存在するようだ。
No.918でネフライト(軟玉・透〜緑閃石)の産状について記したが、ジェーダイトの産状はたいてい蛇紋岩を、そして蛇紋岩起源のネフライトを伴うものである。
従ってオフィオライト帯の分布と関連があると言えるが、生成はネフライト(中低温・中低圧下)よりも高圧の環境(中低温・中高圧下)−地底のより深い領域で進行すると考えられている。
ネフライトはグリーンシストを随伴する傾向があり、ジェーダイトはより高圧で生成するエクロジャイトやブルーシストを随伴する傾向がある。
No.492、 No.919にも書いたが、ジェーダイトの生成反応はまだよく分かっていない。しかしたいていの場合、熱水による交代作用が関与すると推測されている。産地の分布は海洋底地殻(オフィオライト)が大陸プレートの下方に沈降する沈み込み帯と相関しており、沈降の際に巻き込まれた海水(水分)が地下深部における低温・高圧環境を提供するとみられる。
200〜400℃程度の低温環境では、「曹長石→ジェーダイト+石英」の分解反応は
800~1,100MPa(8~11kbar)以上の圧力を要するが(※高温環境ではより高い圧力まで曹長石が安定)、全圧がほぼ水分によって与えられ、石英を伴わない場合には、
500~600MPa 以上の中高圧(地底 16~20km以上に相当)で「方沸石→ジェーダイト+水」の反応が起こる。
地質環境は一概に言えないが、含有痕跡元素(希元素)の研究によると、グアテマラ産は堆積性の、ミャンマー産は火山性(珪長質)の地質から交代成分の供給を受けたとみられる。
海洋底を形成するかんらん岩(比重3.3~3.7)は蛇紋岩化すると軽くなるので(比重2.4~2.6)、沈降後、周囲の岩石との比重差のため浮上運動を始める。ジェーダイト(やネフライト)はその際に捕獲されて蛇紋岩と一緒に地上に上がってきたと考えられる。
これらの岩石はしばしば変形され(破砕され)、断層や礫層を形成し、周囲の岩石を撹拌し、混合して「メランジュ」を形成している。(※メランジュ/メランジは、お菓子のメレンゲやメランジェ(ミルクコーヒーの一種)と同じ語源で、「混合物」を意味する地質用語)。これも産状の特徴のひとつである。
画像はミャンマー産のひすい。上の標本はいわゆる破砕タイプと呼ばれるものを研磨したスラブ。白色部がジェーダイトで、地表付近に浮上するまでに砕けて礫化し、生じた空隙を後から暗碧色の閃石類が充填した、と解釈されている。
この種の岩石は地表で風化して転石になると、磨滅しにくいジェーダイト部が出っ張り閃石部が窪んだ、独特のもこもこした形状を示す。切断して面研磨すると、やはり同様に閃石部が窪みやすい。
下の画像はいわゆるモウ・シッ・シッタイプのジェードで、宝石学者さんに言わせればジェーダイトを含む曹長石(擬似ひすい)ということになろうが、今日の市場ではひすいの顔をして流通していることがある。変成圧を受けたらしく、画像では分からないがうねった片状組織を示す。
世界の主なジェーダイト産地を、ブルーシストとの関連で下図に示した。