918.軟玉 Nephrite (ニュージーランド産) |
軟玉(ネフライト)という宝貴石は、鉱物学的見地では透閃石〜緑閃石に相当し、カルシウム、マグネシウム、鉄、珪素、酸素、また水酸基などの成分で構成されている。IMAの鉱物種マスターリストに示された組成式は □Ca2(Mg5.0-4.5Fe2+0.0-0.5)Si8O22(OH)2〜 □Ca2(Mg4.5-2.5Fe2+0.5-2.5)Si8O22(OH)2である。
No.915に二つの主要な産状のあることを述べたが、いずれも基本的に熱水による成分交代作用が関係している。
中国の伝統的な淡色玉は、苦灰岩
Ca(Mg,Fe)(CO3)2
に珪酸を含む熱水が作用して、炭酸成分が抜けて水酸珪酸塩化したものと考えられる。産地は現在の中国を中心としたアジア圏に点在するほか、ロシアのバイカル湖北東部、またオーストラリア南部のコーウェルにも鉱床がある。温度・圧力環境は産地によって異なるが、概ね
300~550℃程度の中低温、100〜200MPa以上の中低圧下で生成されたようだ。
清代以降、緑〜碧色の玉類もまた高い評価を受けるようになったが、この種のネフライトは蛇紋岩に伴って産することが多い。そのもとは海洋底を形成していたかんらん石
(Mg,Fe)2(SiO4)
などの苦鉄質岩(塩基性岩)である。熱水の水分と反応して蛇紋岩化するとアンチゴライト/クリソタイル/リザーダイト
Mg3Si2O5(OH)4
になり、加えてカルシウム分が入るとネフライトを生じると考えられる。
但し、随伴鉱物の組み合わせは産地によって大きく異なっており、必ずしも単独の機序によって形成されるわけではないようだ。反応はやはり中低温・中低圧下で進行し、比較的軽度の広域変成作用で生じる緑色片岩(グリーンシスト)と同様の変成環境とみられる。産地は世界的に分布するが、いわゆるオフィオライト帯に沿うのが特徴である。
ニュージーランド南島に産する良質の緑色ネフライトはこのタイプに属するが、600-800MPaの比較的高い圧力履歴を受けている。またクロムによる着色が報告されており、蛇紋岩から変化したものらしい。
画像は同島産の標本。明るい緑の小さな斑点が散っているのは灰クロム柘榴石だろう。同様の緑斑はカナダのポーラージェードや、アラスカ・ジェードにも見られる。標本上側の白色部は幾分タルク(滑石)化しているようである。炭酸水が作用した結果と考えられる。
島の原住民は古くからネフライトをポウナム(緑石)と呼んで、武器や護符(ヘイティキ)を作っていた。ポウナムにはマナ(威力)が宿ると信じられた。
cf. No.475, No.476,
C12
(ニュージーランド産ネフライト) 軟玉の話3(ヘイティキ)
両タイプのネフライトの主な産地を下図に示した。
cf. 世界の主なジェーダイト(ひすい輝石)産地の分布地図⇒ No.920