954.株分かれ水晶 divided Quartz (ブルガリア産ほか)

 

 

 

錐面の分裂したアーティチョーク形状の水晶 cf.No.338
(湾曲した柱面を持つ/あるいは柱面らしい柱面のない形状)
− ペルー、アタコチャ産

株分かれ式の集合形の水晶
中央の大きな結晶の周りを小さな結晶が取り囲む
−ブルガリア産

株分かれした形状の水晶群晶 cf.No.21 
−ロシア、ダルネゴルスク産

 

 

水晶のマクロな形態を考えるとき、錐面や柱面の分裂・分枝はさまざまな形態の間を繋ぐキー・トピックと思われる。
水晶のもっともシンプルな形はいわゆる「単結晶」形で、六角柱の片側(または両側)に単一の六角錐が現われたものだ(実際に単結晶かどうかは話が別と思われるが)。 cf. No.942
これは多くの産地において普遍形であり、たいていの水晶がこの形を持つ。群晶は単結晶形が林立したり、放射状に広がったり、あるいは特に秩序もなく好き勝手な方向に乱雑に伸びた叢(くさむら)のような形をとる。しかし産地によっては、複結晶といいたい複合的な結晶(集合)形が主流をなす場合もあるのだ。

No.952のねじれ形は珍しいものだが、この標本が示す錐面の分裂は時に特徴的に現われることがある。例えばベルーのアタコチャでは、明瞭な柱面を持たず頭部が株分かれした、花のつぼみのような形の群晶が多産した。 No.338で紹介したが、ここにディテールの分かる画像をいくつか挙げておく。
柱面を持たないというより、錐面の形態が柱面においても優越した、湾曲した柱面を持ったものと言えるかもしれない。細かな小錐面がマクロモザイク的な模様を描いたりする。頭部は同等サイズの錐面に細かく分裂しているが、これらを束ねる秩序が感じられる。すなわち、いくつかの錐面を一まとめに捉えると、現に存在はしていないが、成長が続いていたらありえたかもしれない、一つの大きな錐面に向かう志向性がみてとれるのである。
これは連晶とか(広義の)エピタキシャルという結晶学用語で語りうる事象かもしれないが、しかしやはり「分かれている」という実態に着目すべきだろう。もしこれが単結晶であるのなら、なぜ分かれているのか、あるいは湾曲しているのか、が肝要だ。そしてなぜその形が保たれるのか。(一群の錐面は実際、同時的に成長してきたと思しい。)

水晶ギャラリー No,10 のロシア、ダルネゴルスク産の水晶はこれに類似した形で、錐面が分裂し湾曲した柱面を形成している。ただ頭部の分裂は同等でなく、中心の錐面が大きく、その周りを小さな錐面が花弁のように取り巻く形になっている。この形状が柱軸方向に伸びて明瞭な柱面が現れると、No.953の(2番目の)カテドラル水晶の形になると思われる。
これらは全体を統合する秩序の中で、錐面や柱面が階段状に繰り返し分かれたディテールが(準フラクタルに)現れているのが不思議でもあり、面白いところだ。

本ページの2番目の標本はブルガリア産。明瞭な柱面を持った大きな単結晶形の水晶が中心になり、その周りをやや丈の低い、やはり柱面を持った小さな結晶が、株分かれした植物の支幹のようにやや開き気味に取り巻いている。柱軸は相互に平行でないが、しかし形状的には一つの(中心の結晶の)根/軸芯から揃って伸び出した様子をしている。
単結晶形と群晶と間の中間的な形態といえそうである。周囲の結晶群が大きくなると、3番目の標本(cf. No.21)、ダルネゴルスク産の形状に通じるし、またよりランダムに集合すれば水晶ギャラリー No.9の群晶の形に繋がる。

こうしてみると、いわゆる単結晶形と群晶との区別には曖昧な領域が存在しており、複結晶という観方、錐面や柱面の分裂・分枝といった事象を絡めて解釈すると、あらゆる結晶は実は複合的な性質/発展性を内在して生まれ、ある結晶はそれが潜在したまま単結晶形に見えており、ある結晶は統合形が窺われる程度に複合性が緩く出現しており、ある結晶では複合性が顕著に現われて群晶的な集合形を呈している、しかし本質は同じではないかという気がしてくる。(逆に言えば群晶にも全体を統べるマクロな秩序が存在しうるのではないか)。

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