965.水晶(成長丘3) Quartz Growth hillock (ブラジル産) |
No.963、No.964 の続き。 もう一つ別の標本で、錐面の区別と現れた成長丘の形について補足する。
この標本は普通に見られる形状の水晶の単晶だが、2枚目の画像に示すように頂点は対向する2面が稜線をなして接触したノミ形になっている(頂上を持たない)。
極端な双晶でなければ、どちらか一方は r面で他方は z面のはずだ。一般に
z面は r面ほど大きく発達しないことになっているが、ノミ形の結晶では同等の大きさを示すことが多く、大きさによってどちらがどちらと言うことは難しい。
しかしノミ形をなす下側の面の左右の錐面は比較的小さく、また頂点(この場合はノミの刃をなす稜線)の形成に関わっていないので、おそらくこの2面は
z面と推測できる。するとノミ形をなす上側の面がもう一つの
z面にあたると考えられる。 cf. No.942
補記4 (錐面の区分)
またこの結晶では微斜面の一つである s面が大きく出た箇所がある。s面は普通はのっぺりした鏡のような面であるが、珍しく条線が見えている。
s面の条線は r面をなす稜線に平行な性質があるとの説があり、そうであればノミ形をなす上側の面は
z面、右上の面は r面と考えられ、上述の判断に整合する。そこで
r面と z面を区分して輪郭の稜線を図示すると3枚目の画像のようになる。
1枚目の画像を見ていただくと、この s面は右上から左下に細長く下がった平行四辺形で、右側の
z面(z2)から左側の r面(r2)に向かって流れて見える。ちょうど下図の右水晶の形であり、形態的な右手水晶と考えることが出来る。
付言するとこの結晶にはもうひとつ小さな s面が z1面と r1面との間にある。
r1面の右肩に現れているので、やはり右手水晶の形態であるが、その形は先とは逆に左上から右下に細長く下がった平行四辺形の見かけを持つ。まるで上図の左水晶の
s面のようだが、しかしそうではないという例だ。
s面は二つの錐面(r面とz面)の中間、その下の二つの柱面の中間を切る指数の面(柱面を柱軸回りに60度回して向こうに倒した平面に相当)であり、形状は等辺のダイヤ形になることもあるし(cf.
No.958)、細長い四辺形として右下がりに見えることもあれば左下がりに見えることもある。s面の形をもって水晶の形態の左右を判断することは出来ないし、どちらの錐面が
r面でどちらが z面かを推測することは危うい。 (上図の s面の形状は一例にすぎない。補記1の下の図参照)。
仮に錐面の区別を上記と反対に解釈したとすれば、この形態は左手水晶ということになる。
さて4枚目以降の画像は、いくつかの錐面に現れた成長模様を、面反射光によって捉えた画像である。
r1面は、秋月博士が r面に観察したのと同様の底辺の片側が上がった三角形の成長丘が見られる。多くは右が切れ上がっており、博士の説に倣うと形態上の右手水晶に現れるもので、上述の推測に整合する。
この面の成長丘には陥没部があって複雑な凹凸を持っている。単純に束ねあいの結果なのか、成長と溶出(融蝕)のプロセスが拮抗して起こった結果なのか、私はよく分からない。
なかには顕微鏡画像の2枚目のように、内側の成長丘は右上がりの形で、その外輪を取り巻くカルデラ地形のような三角壁は左上がりの形をしたものもある。
三角成長丘の形から形態の左右を言うのは少し危険なようにも思われる。
7枚目は別の r面(ノミ形をなす下側の面: r2面)で、三角形の成長丘がほとんど見られず、ほぼ全領域が単独の秩序に支配された等高線模様で覆われている。まるで昔のレコード盤に刻んだ溝のような整った形状である。このような模様からは形態の左右を云々することは出来ない。
z面に現れる模様を8枚目、9枚目に示した。
8枚目の z面(z1)はなんとも不思議な領域を持つ面で、稜から離れた内面に広い面積の丘があり、その中で細かい凹凸が現れている。解釈は保留するが、成長丘の形は底辺の平行な鋭角二等辺三角形状がベースに見える。秋月博士が
z面に観察したのと同様のものと思われる。
9枚目の z面(ノミ形をなす上側の面: z2)は、稜線に沿った平行模様とトックリのような鋭角二等辺三角形の成長丘が見える。これも秋月博士が
z面に観察したのと同様と思われる。
以上の観察からすると、諸々の経験則を勘案してここに示した
r面と z面の判定にはそれなりの妥当性がありそうだ。
結晶の形態の左右と、錐面に現れる(束ねられた)三角成長丘の形態との関連については、傾向性は認められるが一般則として語るには幾分のためらいがある。No.963から見てきたように、錐面に現れる成長模様は面ごとに異なる。同じ機構で成長したとはとても思われない。化粧の仕方はさまざまあるということか。
まあ、こういうことをつらつら考えて悩むのも、鉱石愛好家の愉しみのうちである。
補記1:このページの標本は、ここに書いた錐面(r面と z面)の区分に、うまく適合する例だが、もちろんこうスラスラと当てはめられずに困惑してしまう結晶も存在している。頂点の形成に関与しない
r面らしき錐面のある結晶はしばしば観察される。(おそらくドフィーネ双晶によって錐面の性格があいまいになることもあろう。)
形態的な左右水晶の区別は、微斜面の出ている隅の左右のどちらが
r面であるかを明瞭に判定出来ない限り、誤判定の連発になることを覚悟しなければならない。
結晶面に人工的なエッチング(腐蝕)像を作ると判定が可能になるが、そんな破壊的な作業は当然却下である。
補記2:No.958
の補記5でニューエイジ・グループが「タイム・リンク・クリスタル」と呼ぶ水晶に言及したが、鉱石愛好家(私のこと)の解釈としては、平行四辺形の窓とは
s面のことと思われる。
K.
ラファエルの表現を採用すると、「平行四辺形が水晶の正面の右側にあるときには、(内部の分子構造が)時計回りまたは前向きに巻いているので、あなたは未来に進むことができます」「正面の左側にあるときには、…あなたは過去に戻ることができます」となる。
問題の一つはどこが正面かをどうやって知ることが出来るか、である。おそらく正面とは鉱物学で言う r面のことだろうが、多分、彼らは形態的なプロポーションで直観的に決めるのだろう。
「時計回り、前向き」の表現は何を基準にするかで向きが逆になってしまうが(cf.
No.940)、正面を r面と解釈すると、正面の右側に
s面があるものは形態的な右手水晶(結晶構造上の左手水晶)である。構造らせんの向きは、柱軸に沿った旋光性に関与するらせんは時計回り左巻き、「中心軸」回りの二重らせんは反時計回り右巻きである。(cf.
No.941)
ラファエルが未来に向かうと考えている時計回りに合致するのはおそらく旋光性に寄与する構造のことだろうが、しかし彼女は結晶構造についてあまり明瞭な識別が出来ておらず単にイメージ(とチャネリングのビジョン)でモノを言っているような感じも受ける。だいたいどちらに巻いているにせよ、前向きと後ろ向きを区別することは出来ないはずだ(前にも後ろにも辿れるのがらせんだ)。時計の針が回る向きと時間の進行方向(実際には方向はない)は、人間が抱くイメージのほかは何の因果関係もない。そして時計の針は同一平面上を運動するのであって、らせんではない。
とはいえ、時計盤を地上において、針が時間の進行につれて回りながら前進する(天に向かって上昇する)とイメージすれば、生じるのは左巻きらせんであり、すなわち「時計回り、前向き」とは左巻きらせんのことと言え、上記の判断に整合する。
ところで、今日のネット上の「タイム・リンク・クリスタル」の説明はむしろもっと単純で、結晶に正対した時、平行四辺形(
s面)が右上から左下に細長く下がって見えるものが未来向き、左上から右下に細長く下がって見えるものが過去向きの結晶という判定基準を多く見かける。
これは s面が本文中に示した図のような形状を持つときは、それぞれ形態上の右水晶、左水晶に一致するが、そうでない場合があるということに気づいていない判断と言わねばならない。
補記1の下の図の右端の形の s面をもつ結晶(右水晶)を、この基準でパスト・タイム・リンクと判断してチャネリングすると、おそらく見えるビジョンは未来に属するものである。あれれ…西暦2199年? 宇宙戦艦? などとあわてるはずだ。ワープ航法は太古のアトランティスの超高度技術と思い込んでいても、実は遠い未来の技術であったりするだろう。
しかし、もし本当に過去が見えるとしたら…? その場合は、時間の流れと水晶の結晶構造の巻きの間に因果関係はなく、時間旅行の方向を左右するのは外観的な
s面の形状だということになる。
ついでながら 「s面が出ているからタイム・リンク・クリスタルだ」と信じた結晶が、実は見えているのは x面で s面は出てなかったりすると、クリスタルとワークしても過去も未来も見えないのかもしれない。