999.水晶 日本式双晶6 Quartz Japan law twins (日本産)

 

 

 

水晶 日本式双晶 

水晶 傾軸式双晶 
一方の柱面の半ばから別の個体が伸びたようにみえるもの
縦に伸びた結晶は横に伸びた結晶の内部から生えてみえる

水晶 日本式双晶 

水晶 傾軸式双晶 
一方の個体が優越して成長した(厚みを増した)ように見えるもの
あるいは双方の個体の出現時期が異なるように見えるもの

水晶 日本式双晶 

水晶 傾軸式双晶 疑似十字形
貫入し合うように見えるが、
柱面の位置は一直線上に並ばないのが普通
〜凹入角効果の働く箇所が異なるためか?

水晶 日本式双晶 

水晶 日本式双晶 

水晶 傾軸式双晶 L字形の双晶、またL字形と半回転した
L字形とが柱面同士で接合したように見えるもの(十字形)
−いずれも 群馬県南牧村三ツ岩岳産

 

傾軸式双晶の本家、フランスのドーフィネ地方ラ・ガルデットでは、デクロワゾーのモノグラフ(1855)に図示されたように、(A)二つの単晶が共通の根元からコンパスの足のように開いた双形(V字〜L字/レ字形)のものや、(B)一方の単晶が幹として立ち上がり途中から他方の単晶が斜めに分枝するトの字形のものが報告され、知られてきた。cf. No.998の画像はその一例。

遅れて日本では、ドイツ人ラート(1875)が報告したハート形を手本に鑑みて、相同あるいは一方が幾分小ぶりの平板単晶が一対の屏風のように並んだ双形、いわゆる夫婦(めおと/みょうと)水晶が由緒正しき形態として意識された。cf. No.938
また軍配形という独特の文化的呼称も生じた。ともに(A)のタイプである。

さて一般論として、双晶は単結晶と比べるとわずかに自由エネルギーの高い状態、言い換えると準安定な結晶構造をとった状態とみなせる。溶液からの析出を考えるとき、過飽和度の低い、平衡に近い状態では結晶化はゆっくりと時間をかけて進み、核形成から核成長の過程は主に(自由エネルギーが最小となる)単晶形を出現させると推測できる。双晶形を生じる頻度は低いだろう。もっとも自然界では往々にしてその過程に非平衡の時期(環境のダイナミックな変化)を伴うのでもあろうが。

一方、過飽和度の高い環境で核形成が行われるときは、核の元となる粒子が雨後のタケノコのように出現して互いに接近遭遇し、単晶の核を作る関係で結合するばかりでなく、双晶の核を作る関係(準安定な状態)でも結合する確率が高まると考えられる。つまり単晶核に混じって双晶核も形成されやすい。
結晶核はいったん生じても、ある臨界サイズを超えるまでは再び溶失する可能性があるのだが、核同士が接合すればそれだけ素早くサイズを増して存続する確率が高くなる。この段階でも(単晶)核同士が双晶関係で接合することが考えられる。結果として単晶形に混じって(産地によって異なる)ある比率で双晶形が出現し、成長するだろう。
まとめると双晶は過飽和環境下の核形成段階で生じることが多いと考えられる。(補記1)
また溶液に不純物が含まれる場合も準安定な結晶構造での成長が起こる可能性がある(自然界ではありがち)。岩波「鉱物学」(1975)は、形態的には単純な形状(例えば長石のカルルスバット、バベノ、マネバッハ式双晶)や貫入双晶が主となり、個体のサイズはほぼ等大で成長してゆくだろうと推論している。

すでに十分な大きさの単晶形に成長した結晶でも、条件が満たされれば双晶が生じる可能性がある。同書は、F面やS面上に双晶位置で粒子や結晶が吸着されて存続すると双晶形が出来るとみる。この場合、二つの個体のサイズは不均等となることが多いだろう。F面上での双晶形成では接合面と両個体のF面が一致していることが必要だ。接触双晶の一部はこのような機構で出来たかもしれないという。

水晶の傾軸式双晶では、以上の論がどの程度当てはまるのだろうか。
私たちがふつう目にする標本は(A)タイプが多い。接合面を挟んで左右の結晶サイズが比較的近く、根元から双形に開いている。これは核形成時に双晶が生じた場合の成長形であり、貫入的な双晶の可能性が高いと言えそうである。
貫入双晶なら自由空間で成長するとX字形になるのではないか。そこでV字形の双晶はX字形の上半分であり、母岩上に成長するために下半分が発達しない形とするのが一つの観方である(ちょうど普通の水晶が両頭でなく、一方にだけ頭部を持つように。あるいは白鉛鉱金緑石が三連貫入式の六芒星形をとることもあれば、V字形をとることもあるように cf. No.690)

しかしV字形自体は、両個体が等大に成長した接触双晶だとする観方も可能である。実際、砂川博士らはそう論じており、論拠として、双形の自然結晶を人工水晶と同じ育成環境で全方位的に成長させると、根元の部分は双晶の一方の個体の柱形だけが延伸して、必ず Y字形になることを挙げられている(私としては「y字形」「ト字形」と表現したい)。貫入双晶ならば両個体ともに延伸してX字形になるはずなのにそうならない、というのだ。
この説では、自然界に存在するX字形の日本式双晶はV字形やY字形の双晶が偶々連なって(接触して)生じた形である。また接触双晶としての接触面は錐面同士であり(つまりエステレル式/ライヘンバッハ・グリーゼルンタール式)、境界をなす{1122}面は成長に伴って現れる見かけの接合面と解釈する。

ただ、y字になる理由として、根元の部分が凹形でなく凸形であるため(「突出角を作っている」ため)、凹入角が存在する場合と違って、両個体の渦巻き成長層はいつまでも競合し持続的に成長するのでなく、一方が他方を打ち負かして単結晶として成長するのだと説明している(つまり、擬似凹入角効果が働かない)。
私としては、これは単に(すでにある程度成長した)V字双晶形の根元破断面からは y字形の成長が起こると述べているだけに思える。双晶核が接触双晶であったか(そのため根本が凸形)、貫入双晶であったか(根元も凹形)、接合した核の大きさは等しかったか違っていたか、またこれらが母岩に着床して成長するとどのような形態に発達するか、を語るに十分とはいえないのではないか。
おそらく博士らの実験は、V字形の根元の部分に両個体の領域を共に露出させ、かつその境界を結晶サイズに見合った深さの凹部形状に整えてから行えば、結果が異なるのではなかろうか。

ちなみに自然のX字形双晶の成長痕をX線トポグラフィー法で観察すると、中心に1点の核があり、四方の結晶はこの点を共通核として成長していったと解釈できる(ものがある)との報告もある。これは貫入双晶の形態を示唆している。

(B)タイプの標本は日本ではあまり注目されないが、そのつもりで見ると案外に存在するようである。この形は、双形の根元の部分から一方の柱面だけが伸長したと(成長の核は双形の根元にあると)解釈することも出来るが、冒頭に描写したように一方の個体の幹から他方の個体が枝分かれして成長したとみることも出来る。両個体のサイズに差があることは珍しくなく、各個体の出現時期が異なった接触双晶と考えたくなる。見かけ上ではあるが、幹の下部は母岩から樹立したように見えるものが多い。

幹の部分は、枝分かれした上部より下部が細いものが普通に見られる。この場合、枝分かれする側では枝分かれの上部と下部とで幹のラインが一致せず、反対側では幹のラインが一致していることが多い。このとき幹の下部は上部より細い。これは枝分かれ(双晶化)した後の上部の枝分かれ側には凹入角効果による成長増進があったとひとまず解釈できそうである。(しかしなぜ補角側(95.5度側)には効果が現れないのだろうか。接合面が挟まらないからか?であれば、これは疑似凹入角効果ということになる。)

なおX字形の場合は、上記のトの字の形からさらにもう一本の枝が(対面に)分かれたように見えるものがあり、また、L字形と半回転したL字形とが接合した形に見えるものがある(あるいはV字とΛ字の接合形)。後者は柱面のラインがいずれも相互にズレているタイプである。
一概にまとめて論じていいか定かでないが、L字とL字(V字とΛ字)とに分けて、それぞれのみかけの接合面の延長平面がほぼ一致して見えるX字双晶はおそらく(核生成時の)貫入双晶であり、そうでなければ接触双晶(成長の元となる核が異なる)と考えていいのではないか。(続く No.1000

 

補記1:より過飽和度が高い状態では多結晶的に接合した(自由エネルギーの高い)核も存続が可能になるかもしれない。この種の核の出現は迅速に臨界サイズを上回り、放射状に(ランダムに)結晶が成長した結晶集合体をもたらすと考えられる。cf. No.956
また、水晶の傾軸式双晶の双晶境界(接合面)付近にはブラジル式双晶、すなわち右手水晶と左手水晶とのラメラ領域が形成される、という観察がつねに真なら、この種の双晶は(見かけのシンプルな形態と裏腹に)本質的に異種(構造)核の混成を伴う多晶質的な成長現象であるといえよう。cf. No.995 補記1

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