998.水晶 日本式双晶5 Quartz Japan law twins (日本産)

 

 

 

水晶 日本式双晶 

「双晶は共生する単晶より大きい」という経験則がある。
が、何をもって正しいとするかは時に難しい。
(双晶同士でもサイズは違う)

水晶 日本式双晶 

水晶 日本式双晶 トの字形と蝶形の並び
−群馬県南牧村三ツ岩岳産

 

鉱物の単結晶に紛れて双晶が出現するときの特徴として、次の経験則がまとめられている。
1)共生する単結晶より大きい。
2)双晶面または双晶軸に平行な平板状の外形をとることが多い。
3)双晶境界以外のところに、単結晶にみられない結晶面があらわれることがある。
4)一般に単結晶の場合よりも、結晶面の種類が少ない。

水晶の傾軸式(ガルデット式 or 日本式)双晶では、少なくとも 1)があてはまることが、金峰山産や奈留島産について認められてきた。一概に語るのは危険だとしても、例えば三菱コレクション中の標本(リンク)を見せられれば、イヤハヤまったくその通り、と頷くほかあるまい。そのつもりで見れば、No.703の標本にもその片鱗は窺われる。
2)は、言葉通りには受け取れないが、双晶をなす二つの結晶の柱軸を共に含む平面(交差する二本の柱軸線を単位ベクトルとする二次元面)に平行な平板状、と読みかえることが許されるのなら、そういう傾向があると言える。(但し、ドフィーネ式やブラジル式の共軸式双晶にはあまりあてはまらない。)
3)や4)はおそらくあてはまらない。

双晶が単結晶より大きくなる要因として「凹入角効果」ということが言われる。一般に単結晶表面の渦巻き成長では、二つの渦巻き成長層が出会う箇所に凹入角が生じて、活性中心として機能することが指摘されている。同様に双晶によって二つの単結晶が交差する箇所は形態上の凹入角部となることから恒常的にステップとして働き、優先成長が起こるというのだ。ただし活性中心となるには、凹入角を作る面が F面であることと、その(形態上の)角度が適当であることが重要とされる。
水晶の場合、錐面は比較的スムースな F面であり、柱面は F面だが錐面よりは結合が弱い(条線が発達しやすい)とみられるので(cf. No.947)、条件のひとつは両者とも満足しているが、錐面の方が有利といえそうである。
角度については、錐面同士が出会うときは 169.1度、柱面同士が出会うときは 84.55度になる(但し稜線の交差角。面同士は正対していない)。ともに適当な条件なのか私は判断基準を知らないのだが、直観的に錐面同士の場合の角度はあまりに浅いように思われる。(※補記1)

一方、「擬似凹入角効果」ということも言われる。これは双晶の境界には必ず結晶構造の(わずかな)歪みがあり、消滅しない転位が活性中心となって優先成長をもたらすとの観方である。凹入角をなす面が錐面である場合(凹入角が広い場合=双晶境界面に対して垂直に近い場合)に効果が大きく、柱面同士が出会う場合は乏しいと考えられている。(表面に露出するステップの高さが異なるから)

もしこれらの理論が正しいならば、優先的な成長は凹入角側の挟み面(1個体あたり錐面2面または柱面2面)の層厚増進を起こすものであり、双晶境界面付近の実体を凹入角の中央2分線方向に長く伸ばす効果をもたらすはずだ。一方、双晶境界面から離れる方向への成長、言い換えると中央の境界面から各個体が左右に展開してゆく速度にはあまり影響しないのではないか。
すると、共生する双晶と単晶との大きさを比べたとき、傾軸式双晶の2個体それぞれの柱軸方向への高さは、(促進効果がないので)共生する単結晶の柱軸方向への高さと同レベルであり、一方、凹入角の方向へは平板状の成長が促進されて平たく長くなっているとき、理論通りということになる。
ただし、比較する結晶は同時期に同じ時間をかけて成長したものでなければならない。実際の標本で、これを正しく調べることは可能であろうか。
(ついでにいうと、双晶が単晶2ケ分の大きさ(容積)を持つ、のはむしろ当たりマエダのクラッカーであろう。)

ところで、双晶が共生する単晶より大きくなる要因は、必ずしも上述の2つだけとは限らないだろう。
一般に同レベルの規模の生物や共同体や企業活動が競合しつつ成長するとき、なんらかの理由で他よりも早く大きくなる実体が現れると、その実体はただ他より大きいということによって、以後の競争を有利に運べることがよく起こる(マス効果)。
結晶の(溶液中の)成長においても、おそらく同じことが起こるのでないか。はじめ、凹入角効果か何かの巡り合わせで、近傍の単晶より丈の伸びた双晶は、その後溶液からの成分取り込みが有利に進んで、中央の双晶境界面から離れる向きへも成長が促進されるとしても、不思議でない気がする。

 

補記1:砂川「結晶」(2003) は、日本式双晶の凹入角効果では効果が進むとV字形から軍配形に進むはず、と述べている(10.6)。柱面同士が出会う時に起こり、錐面同士では起こらないというかのようだが、続けて、凹入角効果は、「2個体、接合面ともに転位を含まない完全結晶でのみ期待できる」と述べ、(転位を含む)現実の結晶では擬似凹入角効果が起こるとしている。(つまり凹入角効果は自然結晶には存在しないと?)

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