1042.水晶 スケルタル2 Quartz Skeletal (ブラジル産) |
一番目の標本は、ラベルに「クロコダイル」水晶と標識されたもの。主結晶の柱面を多数の小さな結晶が鎧かウロコのように、あるいは合体ロボのパーツ群がドッキングしたように、覆っている。小晶は錐面を持ち、時に柱面を挟んで両錐を持っている。さながらフランスやドイツの建物の隅壁を飾る張り出し窓のように。
よく見ると柱面の中央部(柱軸方向の稜線の間)が窪んだ箇所もあり、珪酸分の過飽和度が比較的高い環境において稜・角部の成長が優先的に進んで生じた形態がベースになっていると考えられる。とはいえ小晶の面は比較的平滑であるから、概形が定まった後には過飽和度が下がって成長速度が落ち着き、渦巻き成長のような面成長機構によって各小晶の面が整ったのだろう。
No.961で取り上げた、スケルタルな(骸晶的な)成長の発展形で、小晶が凹凸を伴って並ぶ様子があたかもワニの背中のようである。
1980年代前半まで、このタイプの水晶は地元ブラジルで「ジャカレー」と呼ばれていた。ポルトガル語のワニの意。米国の標本商は英語風にクロコダイル、またはアリゲーターと呼んだ。どちらもワニの種類で、クロコダイルはメキシコ〜中米〜南米北部に生息し、アリゲーターは北米メキシコ湾岸及び中米から南米ブラジルにかけて生息する(2種とも世界の他の地域でも見られる)。
ブラジル産だからアリゲーターの方が適当なのだろうが、特に区別なく通用している(今でも)。
また類似の形状の標本を「カテドラル」と呼ぶ向きもあるが、私としてはこの名は伽藍・大聖堂のイメージに相応しい形態について用いたい。ワニのウロコのように平行に沢山並んでゆく感じのものは、ワニ水晶が相応しい。
一方、1980年代後半からは、「エレスチャル」の名称も加わった。これはクリスタル・パワーの判らない理系鉱物男子には不思議としかいいようのない呼び名だが、現在ではコマーシャル効果の高い、響きの美しい語として定着している。そりゃ、天上的・天使的なイメージの方が、市場ではワニより受けるに違いない。
御大カトリーナ・ラファエルは初作「クリスタル・エンライトメント」(1985)の中で「ティーチャー・クリスタル」という存在を語る。それ自体で完成している水晶で、教えるためにここに在るもの。一目でそれと分かる堂々とした風格を持っているもの。ごくわずかな特別な人たちとのみワークをして彼らの(精神的・霊的な)成長を助ける。そしてその人のワークが完了すれば、次の持ち手(探究者)へと渡されてゆくべきもの。彼女自身は(当時まで)
12年間のワークの中で、たった三つしか出会ったことがなかったという。
2作「クリスタル・ヒーリング」(1987)では、より位階の高い「マスター・クリスタル」なる(透明)水晶を語り、神智学徒の崇めるマスター(大師)に擬している。その水晶は光の源泉と調和した完璧な形態を持ち、天からの使者として神聖な法則を教える。須らくティーチャー・クリスタルでもある。彼女は「今のところ
6種類しか知らない」と述べ、本の中で紹介しているそうなのだが、奇妙なことに私にはどれだかはっきり分からない。おそらく、チャネリングとトランスミッター(2つは両極)、ウィンドウ、エレスチャル、レーザーワンド、アースキーパーだろうが…。
そして 3作「クリスタル・トランスミッション」(1989)ではさらに
6つのマスター・クリスタルを挙げて、「今では 12種が知られている」という。ダウ、タントリック・ツイン、イシス、カテドラル、デヴィック・テンプル、タイムリンク。おお、12月の兄弟たちよ。 cf.
パワーストーン用語
それで、エレスチャルについても特徴を述べられているのだが、まあ、何を伝えたいのだかホントに私には理解出来ないので勘弁してほしい。ただ、世間では(数多ある石ショップでは)、上掲のようなスケルタルな形態の標本なら、なんでもかんでもエレスチャルと呼んでいる印象を受ける。およそ「完璧な形態」とは言い難いものでも…。
ラファエル女史は、「このクリスタルは脳波を安定させ、散漫で混乱した思考形態をニュートライズする。するとクラウン・チャクラが刺激され、松果腺液が分泌され、その結果、拡大された覚醒状態に至る。ニュートライズされた精神が安定すると、天使領域の波動が浸透してくる」云々と述べられるが、それなら、もっと明晰にテキストを綴って下さってもよさそうなものだと思う。
4作「クリスタリン・イルミネーション」(2010)でもエレスチャルを取り上げて、「特殊な水晶で、天使的存在の影響を受けた純粋物質」、「たいてい煙水晶であり、焦げたような色合いは火を象徴する。水の近くで成長し、土の中に生まれ、天使界とのエーテル的な結びつきにおいて風」等と、地水火風の4大元素と関連させて書かれている。「煙がかった特徴はカルマ(業)となったパターンを焼き尽くす天上の炎」だと仰るが、理系男子としては、煙水晶の曇りはむしろ放射線/放射能物質と結びついており、カルマを断ち切るのは、結晶格子を破壊するのと同じ、核分裂の結果放出される余剰エネルギー(一種の光)ではないのかと言いたい気がする。さればニュートライズとは非晶質化(ガラス化)のことであるか。
ともあれマスターであるのなら、猫も杓子もエレスチャルと呼べるはずはないのではないかと思われる。少なくともラファエル女史は当初、ヌミノースな感じを受けるものについてのみ、そう定義していたのではなかったか。
話を戻して、2番目の標本は「スケルタル」とまでは言えないが、軽度の稜角優先成長の痕跡を示す結晶。成長時の過飽和度は比較的低かったが、完全な面成長が行われるほどには環境条件が平衡的でなかったと考えられる。
3番目の標本は市場ではカテドラルとかエレスチャルで通用しそうだが、ワニというほどウロコが連接してはいない。私としてはトリ・フラトラム(三兄弟)とでも呼びたい形態である。
水晶の形態分類は難しいです。