899.ラルビカイト Larvikite (ノルウェー産)

 

 

 

Larvikite

ラルビカイト 左側に青白いシラーが見える(タンブル)
−ノルウェー、南東部沿岸地方産

 

ラルビカイトは「ふつう輝石閃長岩」に分類される中性岩で、長石類(80-95%を占める)、輝石類(チタン輝石など)、雲母類、角閃石類で構成される。ジルコンバデレイ石くさび石などの微粒を含む。ノルウェーの首都オスロから南西100キロほどの沿岸地方に産地があり、比較的小規模な貫入岩として生じている。全般に暗灰色〜淡灰色をしており、長石の部分に明瞭なシラー効果が現れる。長石はカリ長石とオリゴクレース(灰曹長石)の2成分に離溶したマイクロ・パーサイト構造の互層をなし、光の干渉効果によって閃光を放つ。ペリステライトやラブラドライトと同様の効果で、ムーンストーンの一種とも言えるが、宝石質のものはほとんどなく、大部分は建築用の装飾石材として用いられている。ある種のモンゾニ岩(石英に乏しくアルカリ長石と斜長石の割合がほぼ等しい深成岩)とも言える。 月長石閃長岩の和名がある。

地元ではこの岩石はありふれたもので、古くから知られていた。12世紀頃、地元の教会の建築石材に利用された例がある。しかしその後 18世紀にデンマーク=ノルウェー国王が「美しい大理石」を求めて装飾石材の探索を号令するまで、数世紀の間あまり顧みられなかった。
ラルビカイトのシラー効果が注目されるのはこの頃からで、石切り場開発の気運が高まった。 1806-08年にかけてこの地方を旅行したレオポルド.v.ブックは、「あらゆる崖や岩石類は異世界からきたもののように輝く。我々がかつて見たことのない光景である。長石の中の、特に大きな結晶中の、この鮮やかな煌めきは異常なほど青く、しばしばラブラドライトのような遊色を持っている。」と書いた。

19世紀の間は概ね小規模の採掘が続いた。墓碑や壁塀の台石として利用され、建築用のパネル材に供されたのは 19世紀末頃からである。 1884年にスタヴァーンに近いフグレビクに採石場が開かれ、その石材が86年にリバプールで開催された国際見本市で金賞をとった。これがきっかけとなり、ドイツ系の資本が入って輸出が始まった。続いて多くの採石場が開かれ、20世紀初にかけて生産量が増大した。

20世紀半ば頃から建築材に人造石が多用されるようになったため需要が低迷したが、自然石の風合いが見直されて 80年代に回帰ブームが起こったおかげで再び日の目を見た。ノルウェーのラルビカイト石材の生産高は 1958年には 3,000万クローネで、その3分の2までが国内消費だったが、1988年には23,000万クローネ、1994年には45,000万クローネに上ったという。生産量は 19万トン、95%が輸出向けだった(つまり増えたのはほぼ輸出分)。用途としては商業ビルの表面装飾板や一般家庭の台所・浴室の化粧タイル用が 85%で、あとの15%は墓石や碑石用である。
ちなみに装飾用の高品質材は採集量の5-15%程度で、歩留りはよくない。残りはズリ(廃材)として放棄されるか、埋戻し材やバラストなどに用いられる。

ラルビカイト Larvikite の名を最初に用いたのは地質学者のW.C.ブレガーで、1890年に出たこの地方の鉱物誌に見える。ラルビカイトからなる複合深成岩帯の中央に位置する沿岸の町ラルビクに因む。周辺の石切り場で採石されたラルビカイトはラルビクの港から輸出された。
この複合岩体はオスロ・リフトと呼ばれる隆起帯の一部である。ペテルセンは、数度にわたる貫入により環状の岩石相分布を示すことを指摘しており(1978年)、東側は石英を伴うラルビカイト、西側はかすみ石を伴うラルビカイトとなっている。概ね2億9千万年前頃に形成されたものといい、東から西に向かって年代はより新しくなる。
長石部分に現れるシラー効果には斑状(散在)、一様(結晶全面にわたる)、局部状(結晶縁に冠状)のパターンがあり、ラルビカイトの形成年代に呼応するという。「ブルーパール(青真珠)」と愛称される代表的なラルビカイトは比較的生成の新しいもので、斑状のシラーを示す。

南東沿岸地方には多数のラルビカイト採石場があり、それぞれに特徴があって、地名と組み合わせたサブタイプ名で区別される。
・テンスベル Tønsbergに産する赤色のラルビカイトは熱水の作用で変質(酸化)したもので、ブレガーは Tønsbergite と呼んだ。貫入帯の北東縁にのみ見出されている。古い時代の教会建築に用いられたのはこれ。
・「エメラルド・パール」またはクロスタッド Klåstad サブタイプは、濃い暗色の地に濃青色〜銀〜ブロンズ色の一様〜冠状の強いシラーを示す。1880年代から採掘されてきた美しい石材で、今も評価が高い。
・「マリーナ・パール」またはストラキル Stålakerサブタイプは、苦鉄質の鉱物を多く含み、比較的淡色の地に青いシラーを示す。
・「ブルー・パール」またはツベダレン Tvedalen サブタイプは、淡色の地に強い青色シラーを示す。生産量が多く、今日ラルビカイトの代表となっている。西側のツベダレン地域に大量に存在し、将来(数百年)にわたって安定供給が可能とみられている。
・「ロイヤル・ブルー」またはマレロド Malerød サブタイプは、 1970年代から採掘の始まった新しい石材。他地域と比べて長石の結晶が粗粒で、淡色の地の広い面に青色のシラーが現れる。今日重要な産地の一つである。

 

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