851.ソーダ沸石・ダイアスポア Natrolite, Diaspore (ノルウェー産)

 

 

Diaspore, Natrolite

ソーダ沸石(白色針状放射)、ダイアスポア(淡黄色層状集合) 
−ノルウェー、サーガ1採石場産

 

サーガ/サーゴセンはランゲスンツ・フィヨルド東部本土の有名なラルビカイト採石エリアで、ツヴェダレンと並んで20世紀の後半から盛んに稼働され、さまざまな希産種が報告されてきた。

なかでもサーガ1は伝説的で、かすみ石閃長岩の巨大なペグマタイトの岩脈がほぼ水平に横たわって露出していた。その厚みは約 2.5m、水平面の広がりは 60x120m あったという。70種以上の鉱物が出て(ランゲスンツ全体では185種 cf.No.838、殊にベリリウム鉱物に富んだ。驚くばかりの大きさの希産種単結晶が記録されており、数kg クラスのリューコフェン石トール石があった。モサンドル石ローゼンブッシュ石などリンク石グループの結晶は長さ数十cmに達した。母岩のかすみ石単結晶は数百kgに及ぶことがあった。
このペグマタイトはすっかり掘り尽くされてしまったが、下層にサーガ3採石場が開発されて、2003年にサーガ1と同様の水平ペグマタイト脈が露出し、さまざまな良標本が市場に出回った。サーゴセン採石場とも呼ばれる。残念なことに 2011年に水没し、露頭はまだ残っているものの現在は操業されていない。
ちなみにサーガ2はサーガ1の東側にあるやや小ぶりな採石場で、0.5m 厚さのペグマタイトがあった。今日ではサーガ1とサーゴセンのズリで埋まっている。

No.836 にサーガ1産のヴェーラー石を紹介したが、このページにはソーダ沸石(曹達沸石)とダイアスポアを示す。
ソーダ沸石 Natrolite: Na2(Al2Si3O10)・2H2O は玄武岩などの火成岩・溶岩の晶洞中に熱水作用で生じる普通種と言ってよいが、塩基性火成岩中の長石から変質した産状も知られている。同様にかすみ石閃長岩質ペグマタイト中の産状、かすみ石閃長岩の風化物としての産状もある。
ランゲスンツでは熱水(沸石化)作用で生じた放射状の集合結晶が、方沸石と共に普通に見られる。1820年代にハンス・エスマルクが採集してモーラーが放射石/ラジオ石 Radiolith と名付けたものはこのタイプだろう。ツヴェダレンには50cmクラスの結晶集合が出る。たいてい長波・短波紫外線で白色蛍光する。

また晶洞を充たして白色緻密な白亜質塊状で産するタイプもよく見られ、地元ではスプルースタイン Spreustein と呼ばれている。ペグマタイト中のかすみ石や長石からの風化変質物で、ダイアスポアやベーム石、ギブス石、Berborite などの良晶を伴うことがある。画像の標本はスプルースタイン・タイプ。ダイアスポアの極微小結晶が層状集合し、その空隙にソーダ沸石の自形結晶が扇状に着床している。

ダイアスポアについては項を改めて紹介したいが、組成 α-AlOOH 、アルミニウムの酸化・単純水酸化物で、サーガ1ではかすみ石閃長岩の風化変質によって生じている。ダイアスポアは一般に白色〜クリーム色のものが多く、マンガンを含むと淡赤紫色を呈する。サーガ/サーゴセンは画像のような淡黄色のものと、淡赤紫色のもの(いわゆるマンガン・ダイアスポア)と両方を出した。

補記:ソーダ沸石は1803年にクラプロートが報告した。命名は成分のナトリウム(ソーダ)に拠り、1811年にトムソンが報告した方ソーダ石 Sodalite とは言わば同源。和名がソーダ沸石なのは一般にナトリウムよりソーダの語に馴染みがあったためだろう。
元素ナトリウムは炭酸ナトリウム(いわゆるソーダ)のラテン語名ナトロンに因むが、英語ではアラビア語由来のソーダに因んでソディウムと呼ばれるのが普通。

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