284.ハックマン石 Hackmanite (アフガニスタン産) |
ほんの数年前まで、私の辞書に「ハックマン石の結晶」という言葉はなかった。いつも塊状で出るものだと思っていた。方ソーダ石だったれば、新宿で手にしそびれたモンサンチレール産の標本が脳裏を去りがたくフラッシュバックしていたのだけども。だからアフガン産の結晶を初めて見た時は、ええ〜っ?と思った。こういう意外性が、人をどんどん鉱物世界の深みへ引き摺り込んでゆく。もはや抜け出せまい…。
ハックマン石は方ソーダ石の亜種で、ライラック〜紫色のものを言う。すでに繰り返し書いているが、可逆的感光性(Tenebrescenece)があり、外光に曝すと見る見る色が褪せてゆき、紫外線にあてると、あんず色に蛍光しながら、もとの色を回復する。で、この標本もやっぱりその性質を示すので、なるほどなあ…と納得した。持ち帰った時は半透明の白い結晶だったが、5分ほど紫外線に当てると、写真よりちょっと濃いくらいの紫になった。嬉しいのは、黄白色の、かなり強い燐光が観察出来ることで、これも私的に意表を衝かれ、マル。いつまで経っても知らないことは山ほどある。
産地のサー・エ・サン(Sar-e-Sang)は青金石で有名だが、熱変成を受けた方解石や苦灰石の岩脈には他にもさまざまなスカルン鉱物が生じている。上の標本は粒質(結晶質)の透閃石を伴っており、次のような反応で、苦灰石から変成したものとみられる。
5CaMg(CO3)2 [苦灰石]+ 8SiO2
[珪酸成分]+H2O [水分]
→Ca2Mg5Si8O22(OH)2
[透閃石]+ 3CaCO3 [方解石]+ 7CO2[炭酸ガス]
cf. No.73 & No.246
& No.682
(ハックマン石、ツグツープ石)
cf 2. MR誌 Vol.45 No.3 (2014年)にサー・エ・サン特集が載っているが、この記事ではハックマン石の定義が人によって異なることから、本タイプの標本は、(紫外線照射によって)「色替わりする方ソーダ石」と呼ぶべきだと指摘している。
No.250 も参照。