652.スティブアルセン Stibarsen-Allemontite (チェコ産)

 

 

Stibarsen Allemontite スティブアルセン アレモンタイト

スティブアルセンとアレモンタイトの混合物(銀〜鼠色)、左上の赤色は濃紅銀鉱 
-チェコ、中央ボヘミア州、トシェブスコ、プシブラム、ウラニウム第7鉱山産

 

 

スティブアルセンは砒素のアンチモン化物(AsSb)といえる。あるいはアンチモンの砒化物(SbAs)といってもよい。この組成を持つ物質はかつてフランスのアレモン(Allemont)に産したものがアレモンタイトと名づけられていたが(ハイジンガーの書(1845)に見える)、1941年にスティブアルセンが記載されたとき、記載者 P.E.Wretblad はアレモンタイトがしばしば自然砒や自然アンチモンを含むことから、純粋なものをスティブアルセンと呼び、これら元素との混合物をアレモンタイトと呼ぶことにしようと唱えた。なぜ以前からあった名前を採用せず混合物名に留めたいと考えたのか、その理由は手元の鉱物図鑑では分からないが(同じような経緯で種名として再定義した例もあるから)、ともあれ半世紀近く経った 1982年、IMAは AsSb をスティブアルセンと呼ぶことに決めた。しかし少し古い(でも十分新しい)鉱物図鑑ではアレモンタイトが採用されていることもある。和名はあまり一般的でないが安砒鉱がある。

砒素とアンチモン(それにビスマス)とは周期表上で同じ列(XA族)に入る半金属元素である。この族の特徴として化学的性質や物理的性質に多様性がある。もちろん同族なので似ているところもあるが、金属結合または共有結合を選択する傾向性が若干異なり、そのため混合物でなく化合物の存在が可能であるらしい。
スティブアルセンは2つの元素の六方晶系化合物であるが、砒素、アンチモン、ビスマスと同じ砒素グループに分類されている。すなわち、この元素族の奇妙な特性によって、例外的に元素鉱物として扱われるのだ。

XA族の3つの半金属はいずれも(化合物として)古くから知られていたが、単体の金属質(レグルス)として得られたのはヨーロッパでは13世紀以降のことと考えられている。また同族の非金属リンの発見は17世紀のことだった( cf. 光をもたらすモノまたはリンの発見、 錬金術師のボローニャ石 注1)。

 

補記:プシブラムの街から南西に約10kmのトシェブスコ鉱床は 1959年に稼働を終えたが、数年後に鉱物学的調査が行われた時、上の標本のような外観の自然砒・スティブアルセンが報告された。以来時折、市場に流れるといい、地味ながらそれなりに需要があるもののようだ。
プシブラムについては No.751 補記参照。もともと銀を目当てに採掘されたが、鉱体は久しい以前に採り尽くされ、二次大戦頃から濃集したウラン鉱物を掘るようになった。

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