741.ミアジル鉱 Miargyrite (日本産) |
いわゆるルビー・シルバーの一種で、銀とアンチモンの硫塩鉱物。組成式 AgSbS2。和名はミアジル鉱が一般的だが、輝安銀鉱、硫安銀鉱とも呼ばれる。濃・淡銀鉱同様に黒っぽいメタリックな結晶をなし(光源によっては結晶面が金属反射的な灰銀色に見える)、内部欠陥等の反射光で赤くキラめく。条痕も赤色。木下原色鉱石図鑑にはミアルジル鉱の名で、濃紅銀鉱より青みに乏しいことが記されている。
原産地はドイツ、ザクセンのフライブルク。1824年にフリードリッヒ・モースが報告し、1829年にハインリッヒ・ローゼが物性・組成を記載した。他のルビー・シルバーと比べると銀分に乏しいことから、少なめの銀鉱の意で
Mi-Argyrite → Miargyrite と名づけられたという(頭辞
Mi- はギリシャ語の meion/ mikra に拠り、英語の Minor に相当)。その後、さまざまな産地で見出されており、低〜中温熱水性の銀鉱脈にはだいたい出るものらしい。
単斜晶系の結晶構造を持ち、自形は単斜厚板状だが、一般に複雑な形状をとることが多い。六角形状の輪郭を示すこともある。同質異像の鉱物に等軸晶系のキューボアジル鉱
cuboargyrite (1998年)と、三斜晶系のバウムスターク鉱 baumstarkite
(2002年)とがあって同質三像を形成する。等軸晶構造は565℃以上の高温で安定。これらは等軸晶系の方鉛鉱と部分的に固溶しあうことが可能であり、いわゆる含銀方鉛鉱にはこの種の鉱物が溶け込んでいると考えられる。
日本にも各地に産して標本が出回っているが、たいていは母岩の空隙にごく微小な結晶が数個つく感じである。肉眼的な結晶標本は世界的に高価で、一般コレクターは手を出しにくい。
画像は豊城鉱山のもの。写っている範囲は左右1.5mmくらい、といえば、どんなに小さいかお分かりいただけよう。肉眼ではまったくディテイルが分からないが、総合20倍の実体顕微鏡でもあまりよくは分からない。そんな標本でも、高画素数のデジカメを使った強拡大マクロ撮影+深度合成処理のコンビネーションで、ご覧のようにはっきりと結晶の形を確認することが出来る。エラい時代だと思う。
こんな標本をルーペ片手にしっかり識別して、ミアジル鉱として売りに出せる業者さんには頭が下がる。
余談だが、私は本鉱をついミアルジ鉱と言ってしまう。ミアジル鉱より語感がいいように思うので。ついでに言うと、ベルセリウス鉱の原産地スクリケルム銅山も、よほど注意していないとスケリクルムと書いてしまう。治る気配なし。
追記:鹿児島県吹上町の吹上温泉のあたりには、かつて豊城(ほうじょう)、湯之浦、吹上(ふきあげ)、成清(なるきよ)、助代(すけしろ)、日之本といった小鉱山があり、その東続きに錫山鉱山があった。
豊城鉱山は昭和42年頃まで稼働していた鉱山で、石英脈中の銀鉱を掘った。銀鉱として濃紅銀鉱とミアジル鉱とがあり、前者の方が赤みを帯びる傾向がある。ほかにベルチェ鉱、硫砒鉄鉱、輝安鉱、黄鉄鉱などを産した。九州南部では金銀鉱にしばしばアンチモンを伴う。
補記:銀鉱の代表格は硫化銀である輝銀鉱(針銀鉱)だが、アンチモンを多く含む環境では、銀・アンチモンの硫化鉱が生じる。銀の含有率で並べると次のようになる。
成分 |
鉱物種 | 銀含有率(重量%) |
銀 多
↑ ↓ アンチモン 多 |
輝銀鉱 Acanthite | 87.1% |
雑銀鉱 Polybasite | 74.3% | |
脆銀鉱 Stephanite | 68.3% | |
濃紅銀鉱 Pyrargyrite | 59.8% | |
ミアジル鉱 Miargyrite | 36.7% | |
輝安鉱 Stibnite /ベルチェ鉱 | - |