812.くさび石 Titanite (ロシア産ほか)

 

 

sphene titanite

titanite sphene

くさび石のブラジル式双晶 −ブラジル、M.G.産

sphene cut stone

スフェーンのカット石

Cr Titanite

(含クロム)くさび石−ロシア、ウラル、サラヌイ産

Titanite Ore

放射状のスフェーン −ロシア、コラ半島キビニイ産

 

Titanite (英:タイタナイト)は 1795年にクラプロートがチタンとカルシウムの珪酸塩として報告したのが初めで、彼が命名した新元素チタン(タイタニウム)に因んでいる(cf. No.811。しかしチタンを含む鉱物はなにも本鉱に限ったわけではなく(実際チタンは別の鉱物-イルメナイトルチル-から発見された)、むしろそのクサビ(楔)状の結晶形状を特徴と捉えて、1801年に R.J.アユイは Sphene スフェーンの名を提案した。ギリシャ語の「クサビ」に因む。
以来、どちらの呼び名も通用しているが、本邦ではアユイに倣って和名をくさび石(榍石、楔石)とした。1982年に IMA は先取権を理由に Titanite を正として Sphene を廃したが、必ずしもよい判断とはいえまい。そもそも元素名チタンに先取権があるかどうかが怪しいのであるから。とはいえ最近はチタン石という和名を主張する向きもある。

本鉱の理想組成は CaTiSiO5 と表記されるが、置換成分を考慮すると、(Ca, REE)(Ti,Al,Fe)SiO4(O,OH,F)と書ける。Caのサイトにはさまざまな希元素(REE)や Na, Th, U などが入る。Y やCeなどのREEを含む亜種をかつてカイルハウ石(keilhauite)と呼び、Yリッチな亜種は特にイットロくさび石と呼んだ(cf. No.438。放射性元素を含むものはある程度メタミクト化(非晶質化)が進行している。 Al を含む亜種(高圧環境に生じやすい)は grothite と呼ばれた。 Ti はまた 10%程度の錫と置換可能。マラヤ石はくさび石に対する錫優越種と位置付けられる。 cf.No.810 灰チタン石

イタリアには含アンチモン亜種も知られる。微量のクロム、バナジウム、スカンジウムを含むことがあり、これらは発色に影響することがある。マンガンを含んでピンク色を帯びたものはマンガンくさび石(greenovite)と呼ばれる。通常は無色〜黄色〜黄褐色〜黄土色〜茶色(黒色)、あるいは無色〜黄緑色〜緑色系に発色したものが多い。多色性(3色)が強く、屈折率が高い。金剛光沢を持つ上に、ダイヤモンドより大きな分散を示すため、透明石をカットすると燦然たるファイヤを放つ。ただ脆く、軟らかい(硬度5.5)ので、観賞用の宝石である。

上の画像2つはブラジル産のくさび石。ラベルは単にミナス・ゼラエス州とあるだけだが、おそらくカペリーニャ産と思われる。ここは軽度の変成を受けたスカルン鉱床で、折々晶洞からジェム品質の結晶を出している。1966年頃から市場に出回るようになり、コレクター向けにカットされたルースも流れている。いわゆるフィッシュ・テイル形の双晶標本が有名。
中の画像はウラル産のくさび石で、クロムを含むために緑色を呈すると言われる。ウヴァロバイト(灰クロムざくろ石)で有名な産地と言えば、あぁ!と頷かれるのではないか。例の90年代の収穫期に西欧市場によく出回った。最近では2005年頃、アメス石の良晶を伴う標本が出た。
下の画像はコラ半島産。半島には灰チタン石を出したアフリカンダなどくさび石標本産地がいくつかあるが、おそらくキーロフスク燐灰石鉱山産と思われる。くさび石はどちらかと言えばレアな「宝石」と考えられているが、ここでは「鉱石」がヤマのように採れて、チタン資源として活用されている。放射針状のノジュールタイプが目印。急速に冷えてゆく環境で出来たとみられる。ジルコン、ニオブ、タンタルといった希元素や、さまざまな希土類元素を含む。

ちなみに見たことはないが、スイス産の標本には貫入双晶して十字形をしたものがあるそうな。

補記:こういうことをいう学者さんは、そもそも和名を使わないで国際名(英名)で通せばいいのだと思う。