854.カルコアルマイト Chalcoalumite (USA産) |
水酸アルミニウムに近い成分の鉱物として本鉱-
カルコアルマイト(銅アルミナ石)を取り上げる。
アルミニウムと銅の含水塩基性硫酸塩で、組成 CuAl4[(OH)12|SO4]・3H2O。硫酸塩と言いながら陰イオン成分はほぼ水酸基で、かつ3分子の水に水和された状態にある。瑞々しいのであろう。
式を(恣意的にだが)分解してみると、CuSO4+
4Al(OH)3+3H2O
と書ける。硫酸銅の水溶液に比較的多量の水酸アルミナ成分(ギブス石など)が溶け込んで一つの秩序(結晶構造)にまとまったもの、という観方が出来る。熱水鉱脈型銅鉱床の酸化帯に産し、アルミ成分はふつう母岩の粘土鉱物から供給されるが、アロフェンやギブス石に由来することもあり、逆に風化を受けて(含銅)ギブス石に変化することもある。
本鉱は米国の老舗科学資器材店 Ward's Natural Science
社(cf. N.830)からハーバード大に提供された標本の中に見出されたのが初め。アリゾナ州ビスビー、カッパー・クイーン鉱山産の淡青緑色の鉱物で、エスパー・ラーセン(1879-1961:
エスパー石とラーセン石に名が残る)らが研究して
1925年に記載した。成分からカルコアルマイト
Chalco-alum-ite
(銅・明礬・石)と名づけられた。
茶色い褐鉄鉱様物質の表面に数センチ厚さの殻状で産し、褐鉄鉱と本鉱との間に孔雀石や藍銅鉱の層が挟まっていた。ラーセンらはその後、いくつかのコレクション中にも本鉱を確認し、クリソコラやアロフェンなどと標識された標本には本鉱を含むものが他にもあるに違いないと指摘している。
希産種だが、ビスビーの銅山にはよく見られた。この地域の鉱業は1960年代までにすっかり凋落してゴージャスな品が出てこなくなったが、それでも古いズリの風化物中に本鉱が新たに生成している例があるそうだ。待っていればよいものが現れるかもしれない。
画像は同州グランド・ビュー鉱山(ラスト・チャンス鉱山)産の標本。雄大な景観美を誇るグランド・キャニオン南端に位置し、1890年
ホースシュー・メサと呼ばれる馬蹄形の風化残丘に二つの鉱区が設けられて銅を掘った。92-93年にかけて鉱石を運びだすための4マイル長さのロバ道(グランドビュー・トレイル)が整備された。
グランド・キャニオン周辺の鉱山はたいてい垂直に伸びる筒状の角礫岩帯が鉱体となっており、熱水作用によって筒内の石灰質岩が溶解して空洞を生じ、傍ら重金属(銅やウランなど)が濃集した鉱化部(富鉱体)を生じている。グランド・ビュー鉱山の銅鉱は主に硫酸塩(ブロシャン銅鉱やレッソム銅鉱=青針銅鉱など)や炭酸塩(藍銅鉱や孔雀石)で、品位はかなり高かった。それでもあまりに僻地にあるため、銅相場が下落すると採算が合わなくなった。1916年までに稼働を終え、1940年に連邦政府に譲渡された。後に国立公園の区画に入った。今でもグランドキャニオンのサウス・リムから、1km
下の谷あいの残丘へ続く半ば崩れたロバ道を見ることが出来るという。
閉山後も廃坑が残り、銅やウランの二次鉱物を採集することが出来た。1964年に坑道が調査された時はブロシャン銅鉱や青針銅鉱の美しい結晶が至るところに見られ、横坑の両壁面にブロシャン銅鉱の縁取りが
40フィートほども続いていたという。
グランドビュー鉱山は(中国産が現れるまで)青針銅鉱の世界最良の産地とされていた。また本鉱・カルコアルマイトの良標本でも知られた。後者は70年代に採集されたものが80年代になってから市場に出回り始めたそうだが、90年代以降も売られていたと私は記憶している。
後に標本商クリスターレを旗揚げするウェイン・リヒトは、1960年代に十数回に渡って鉱山を訪れ、産出鉱物の報告をMR誌(1971:Vol.2)
に寄せた。この時、「不明鉱物 No.5」と標識された青緑色の放射状結晶は、2007年に新種グランドビュー石
Grandviewite として記載され、ひとしきり話題となった。
なにしろ国立公園内であるし、坑内に営巣するコウモリを保護するため、2009年に坑口にゲート柵が設けられて進入出来なくなったので、新しい標本が出てくる見込みは薄いのだが、この鉱山産の古い標本(青ハリや本鉱)をお持ちの方は、0.5mm
長さほどの濃青色の放射状結晶が付着していないか、ルーペなどでよく調べてみられるといい。もし付いていればラッキー、グランドビュー石の可能性がある。
本鉱は青みを帯びた淡緑色、卓状〜ラス板状の微小結晶〜被膜状で産する。3種の双晶を持ち、三角柱状の自形結晶(ないし三角形の断面)を示すというが、手持ちの標本はなにしろ結晶があまりに微小なのでよく分からない(高倍率マクロ撮影してみると、どうも断面は四角形のようだ?)