1060.トライゴーニック水晶  Trigonic Quartz (ブラジル産)

 

 

トライゴーニック(食像)水晶 −ブラジル産

錐面に生じた下向き三角形の食像
群れをなすことが多い

別の錐面上の食像

また別の錐面上の食像

柱面でも溶食が進んでいる。
正面の錐面の右上方に、溶食による
緩傾斜の擬似面が生じている。

 

ジェーンアン・ドウ(ダウ)女史(1936-2008)は鉱物結晶を瞑想に使ったクリスタルワークの草分けで、自身の臨死体験をきっかけに、いわゆるホーリスティック健康法(医療)への関心を抱く。「クリスタル・ジャーニー」(邦訳1994)の謝辞によると、彼女のクリスタル・ヒーリングの旅はすでに 25年間以上続いており、ヒッピー文化が花開いた 60年代後半に始まったことが分かる。旅の仲間にはこの分野でベストセラー本を出した K.ラファエルや A.メロディの名も見える。米国カリフォルニアはヒーリングとクリスタルビジネスのメッカといえる。

上掲書の 5章は彼女の名を記念したドウ・クリスタルと、トライゴーニックと呼ばれた水晶とに捧げられている。彼女がブラジル産のトライゴーニックに出逢ったのはサンタフェ(NM州)の北にあるヒッピー世代の共同体の町の、ある小さなクリスタルショップでのことだった。数多くの小さな三角形が自然に刻まれたそのポイント(単晶)を手にすると、体にエナジーのシフトが起こり、パターンが正しい配置に収まったと書いている。
錐面上の三角形は頂点を向いているものと柱面に(下方に)向いているものとの両方があった。たいていの結晶では三角形は頂点を向いているものだけがあり(cf.No.966 レコードキーパー)、下方を向くものは比較的珍しい。

三角形はそれぞれ次のものと重なって、鎖のように繋がり、波のような模様を描いていた。その形は彼女が(サイキックな能力によって)、霊的な光の身体に見る、自由に流れている三角形に似ていた。三角の向きは光の身体の内側では誕生の時と死の時とで逆方向になるのだが、外側ではどちらの方向にも流れている。
こうした観察と瞑想体験とに拠って、ドウ女史は「トライゴーニック」を肉体と魂とのリンクの象徴と感じた。そしてこの水晶を手に取る私たちをシャーマンの旅の出発点に押し出すと語った。それは個の魂がホーリスティックな大霊・光の源泉へと回帰する旅路である。トライゴーニックは旅の往還を司り、ある面では生まれ出る新しい魂の来訪を支え、別の面では死にゆく魂の移行を助ける。私たちが循環する生死の旅の中にあることを気づかせるよすがとなるものなのだ。生まれ、て、死す。

このページの標本は、ドウ女史の本の挿絵にあるトライゴーニック・クリスタルのスケッチとそっくりの特徴を持っているもの。くさび型三角形状の凹面が錐面上に多数刻まれており、くさびの頂点が柱面方向に向いて連なって見える。この形は結晶が溶食作用を受けて浸食されたことによって生じたものと思しい。
過飽和度の低い環境での緩やかな面成長時に、結晶構造の欠陥箇所を起点に渦巻き成長が起こり、起点を中心に盛り上がった上向き三角の成長丘 (No.963No.964No.965、No.966)が生じるのと対をなす現象である。すなわち、欠陥箇所は優先的に成長が促進されるポイントであると同時に、溶解時には溶食の始まる起点となって窪みを刻むのである。ここで面白いのは成長丘は上向き三角である(場合が多い)のに対して、溶食孔は下向き三角である(場合が多い)ことだ。

とはいえ、下向き三角形の窪みは時には成長作用によっても生じる。複数の錐面が同時並行的に形成されると、その間隙に未成長空間として現れることがあり、No.971はその一例。No.1059の単独の三角窪みもおそらくこれ。同じ形が生成によっても消滅によっても生じうるのが興味深い。生死一如。溶食で生じる場合は鎖状に多数連接していることが多いようだ。
また No.961に見える中央の上向き三角形の窪みは、骸晶的な成長作用の結果生じたもので、成長丘がポジならこちらはネガである。

トライゴーニック水晶は、ブラジル産の他に、ロシア産(90年代によく出回った)や、インド産(現在も出回っている)も知られている。インド産には c面を伴う例がしばしばあるという。

ちなみにダイヤモンドの結晶は、同様の三角形の窪み(トライゴン)を伴って産することが多い(結晶面の三角と鏡対称配置)。 1960年代には、この形が成長によって生じたのか溶食によって生じたのか、結晶学者たちの間で激しい議論の的となっていた。フランクとトランスキーとの火花を散らす論争は当時の学会名物だったと砂川博士が書いている。理論的にどちらの機構でも起り得たのである。
今日ではダイヤモンドのトライゴンは概ね溶食で生じたものと考えられている。(たいていのダイヤモンドは生成後、地上付近に運ばれるまでに溶食過程の洗礼を受ける。)

cf.No.1043

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