331.デマントイド3  Andradite/Demantoid (イタリア産)

 

 

アンドラダイト(デマントイド) 
- イタリア、ソンドリオ、マレンコ谷産

 

地中のマグマが結晶化して珪酸塩鉱物が生じるとき、まだ比較的高い温度で最初に現れるのは、かんらん石と輝石だという。どちらも単純な組成の鉱物で、かんらん石は(Mg,Fe)2SiO4 、輝石は種類によるが (Mg,Fe)2Si2O6 あるいは (Ca,Na)(Mg,Fe,Al)Si2O6 といった理想組成式を持っている。
蛇紋石はこれらの鉱物、特にかんらん石からの変成物として生成することが多い。その組成式は (Mg,Fe)3Si2O5(OH)4 で、水酸基を持っている。地中に含まれた水分や海底に浸透した海水が反応に関与したことが窺われる。生成条件によって3種の異なった結晶構造をとり、クリソタイル、アンチゴライト、リザーダイトに区別される。これらが蛇紋岩を構成する鉱物ということになる。
クリソタイルは白色〜淡色で繊維状をなすタイプのもので、繊維はなかなか丈夫で切れない。いわゆる温石綿。脈をなすものは脈壁に垂直に線維が並ぶ。cf. No.328No.870 
アンチゴライトは塊状をなすことが多く、つるつるした感じがあり、脂肪光沢が特徴。高圧(変成)履歴を受けたものが多い。変成が進んでネフライト(軟玉)化するものはたいていアンチゴライトが元という。へき開完全で葉蛇紋石の名がある。cf. No.358
リザーダイトは低温生成のもので高圧も受けていないといわれる。普通、細粒の集合をなし、結晶度が低く、光沢のある割れ面をもたないことが多い。蛇紋岩という名の類推で、リザーダイトはトカゲ Lizardに由来するような気がして仕方がないが、実際はイギリス・コーンウォール地方の地名リザードに因む。

上の標本は、白い蛇紋石石綿(クリソタイルらしい)の中に生じた粒状の灰鉄ざくろ石 Ca3Fe2(SiO4)3 である。現地では"ghianda"(どんぐり)と愛称される。 灰鉄ざくろ石は鉄分に富んだスカルンや蛇紋岩中に産出するのが主な産状であるが、クロムを含む亜種デマントイドは、蛇紋岩中に出るものがほとんど。これはクロムが塩基性の火成活動に伴う元素だから、ということがひとつの理由であろう。→cf. No.122
本鉱に伴う石綿は、ムシれの走った柔らかい山皮状で、ついほぐほぐしてしまう。いかん、いかん。

cf. No.243
補記:Serpentine グループをより詳細に区分すると、Antigorite(葉蛇紋石)、Clinochrysotile(単斜繊維蛇紋石)、Orthochrysotile(斜方繊維蛇紋石)、Parachrysotile(パラ繊維蛇紋石)、及びLizardite(リザード石)に 1M, 1T, 6T1, 2H1, 2H2の5種、あわせて9種の理想式が導かれている。ただし野外で区別出来るのは、本文中の3種がせいぜい。

※その後分類が変わって、Clinochrysotile と Orthochrysotile はポリタイプ(多型)としてクリソタイル石1種にまとめられた。リザード石はクリソタイル石の六方(三方)晶系の多形(同質異像)にあたる。アンチゴライトは化学成分が異なるので、厳密にはクリソタイル石やリザード石の多形ではない。(2015.9)

補記2:蛇紋岩 Serpentine はラテン語 serpentinus (蛇のような)に由来して、古くから蛇の皮のような模様のある岩石名となっていた。OED には 1426年の用例が載っているそうだ。和名の蛇紋岩は和田博士(1878年)による。

追記:マレンコ谷では1870年代からアスベストを掘る鉱山が開かれた。フランス資本が開発したので、このエリアをカンポ・フランシアという。緑色の宝石質の灰鉄ざくろ石:デマントイドが報告されたのは 1876年で、以来、折々アスベストの網目に包まれた美麗標本が市場に現れる。クラッシックにして現在まで供給が続くありがたい産地だ。もっともアスベスト鉱山の多くは20世紀初に閉山しており、現在稼働しているものは一つもない。採掘権のリースを受けた半玄人のコレクターがデマントイドを目当てに掘ってゆくのである。(2021.8.12)

鉱物たちの庭 ホームへ