558.ペリドット Peridot (エジプト産)

 

 

Peridot Egypt

ペリドットの結晶−エジプト、紅海、セント・ジョン島産

 

鉱物標本の流通はフシギである。モノがあるときには品質のいいものが安価にいくらでも出回って、どこのお店へ行っても扱っている。ところが、ない標本はいくら探しても見つからない。
ほかの蒐集趣味と同じく、鉱物蒐集は模倣性が強い。たいていの人は図鑑に載っている有名標本とか、同好のコレクターが持っている定番標本とかを見せられると、それがひとつの基準としてインプットされて同じものが欲しくなる。どうしても欲しくなる。ところが、そういう標本に限って手に入りにくかったりする…。あるいはマーフィーの法則ばりにこうも言えるか。探している標本は見つからないものである。

かくいう私は、ライン鉱ない?鈴木石ない?手稲石は?などと、ないものねだりをするヒトなのだが、そのテのあるはずがないものは、なくて何のフシギもナイ。しかし、あんなに出回った標本が…と思う石が気がつくと市場から姿を消していたりするのは、やっぱりフシギに思えてならない。鉱物ショーなどで、「○○石ありませんか」と隣りで訊ねているのを耳にするとき、ことにそう感じられることが多い。
かつてポー博士は「(大量に出回っている)メキシコ産の標本は今買いなさい。来年はもうない」と言ったが、たしかにそういうケースがごろごろ転がっているようである。そしてやっと見つけた石はバカ高い値段がついている。
だから蒐集の方法としては、そのときある標本で気に入ったものを集めていくのがコツなのだろうと思う。今は誰でも持っている標本だが、そのうちのいくつかは百年先に往年の名品に化けているかもしれない。まあ、気の長い話ではある。
しかしまた、こういうことも言えるかも知れない。探すのをやめたとき、見つかることもよくある話だと。実際、アホー石入り水晶とか、含銅アダム鉱とか、フォスフォフィライトとか、今またぽこぽこ出ているではありませんか。
結局先のことはコレクターにも標本商さんにも予想は出来ない。だから多分、私たちは何時まで経っても、同じ煩悩に振り回されているであろう。

標本はエジプト産のペリドット。もともと(といっても随分昔のことだが)、ヨーロッパでペリドットといえば紅海に浮かぶセント・ジョン島で採れるものと相場が決まっていた。今でも書籍をくってペリドットを調べれば、この島の名が出ていない本の方が珍しいくらいだ。でも、標本はほんとに出回っていない。多分、他の産地から安価で質のいいものがいくらでも採れるからだろう、私自身はほんの数回しか見たことがない。で、わずかな機会をくぐって手に入れた。再びたくさん出てくる時を待てなかった私の負けだ。
ちなみにイラン産のトルコ石は、最近よく見るようになった。
なおこの島のペリドットは変成作用を受けた岩体中に脈状に産するとのことで、再結晶化によって大粒の透明結晶が成長したと考えられている。

cf.No.36 ペリドット 追記2

鉱物たちの庭 ホームへ