604.アフガン石 Afghanite (アフガニスタン産) |
アフガナイトはその名の通り、アフガニスタンに産する石で、砂漠の夜空の色と讃えられる青金石(ラピスラズリ)の故郷、バダフシャンのサー・エ・サン鉱山が原産地である。1968年にバリアンらによって記載された。噴出したアルカリ溶岩に含まれる炭酸性の変成岩塊中に生じており、かすみ石、方ソーダ石、黄鉄鉱、金雲母、オリビンなどを伴う。
青金石の結晶のコアの部分はしばしばアフガナイトになっている。サー・エ・サンから青金石の結晶が出回り始めた頃、欠けた内部が白っぽくなっている標本が散見されたが、当時は「この部分も青金石であり、硫黄分が不足して青くなっていないものだ。青金石の本来の色は白色だ」などと言われていた。しかし実際にはその白色部分はアフガン石だったというケースがあったらしい。
また、この産地では石英(水晶)から青金石やアフガン石に変化した仮晶も見つかるという。
このようにアフガナイトは青金石に縁の深い鉱物で、種としては準長石の一種カンクリン石グループに属する。色は青色〜無色透明。青いものは青金石と同じく硫黄成分による。
組成式は(Na,Ca,K)8(Si,Al)12O24(SO4,Cl,CO3)3・H2O。珪酸塩であり硫酸塩であり炭酸塩でもある。純成分には硫黄を含まないので、そのような標本は無色〜白色だ。結晶系は六方晶系。アフガン石は短波紫外線によってオレンジ色〜黄色に蛍光することがある。結晶のコアの部分の蛍光性はごく微弱とされており、蛍光要因はおそらく硫黄などの不純物によるものだろう。
標本として比較的豊富に出回るようになったのは 2000年以降のことと思う。個人的な感覚としては、90年代にサー・エ・サンの青金石の結晶標本が潤沢に供給されたあと、同じ産地から方ソーダ石の結晶標本がまま出るようになった。アフガン石の結晶はさらにその後を受けたものである。おそらく初期には青金石とか方ソーダ石とかアフガン石とか区別されず、同じような青い結晶として一カラゲにされていたのが、扱い手の目が次第に肥えて、青金石とは別種の、さらに希少価値の高い標本として識別されるようになったものだろう。
アメリカのある標本商さんはアフガン石の良品が採集された時期を2001年、かの9.11事件の直前の夏と書いている。その以前にはパミールのリャジバルダルやイタリア産の標本が知られていたが、大方の耳目を引くようなものではなかったようである。青金石の場合と同様、サー・エ・サン産が圧倒的な産量と品質とを誇っている。
青金石によく似たアフガン石に熱をあげるのは基本的に鉱物種コレクターだけだろうと思う。貴石細工に用いる場合は、その青い石が青金石でも方ソーダ石でもアフガン石でも大勢に影響しない。
アフガン石の結晶面は丸みを帯びているのが普通だが、愛好家の嗜好を反映してか、しばしば磨いて結晶の角を鋭く整えたものがある。その種の加工を嫌うひとは注意が必要。
アフガニスタン以外の産地としては、NY州セントローレンスのエドワード鉱山、カナダバフィン島のレイク・ハーバー、イタリアのモンテ・ソーマ、トスカーナ地方のピチグラーノ、バイカル湖のツルチュイ、マラヤ・ビストラヤ鉱区、パミールのリャジバルダルなどが挙げられており、いよいよ青金石と関係が深い。モンテ・ソーマやベスビアス火山のアフガン石は無色〜白色の結晶で、かつてはdavyneと標識されていた。