281.石膏 Fish Tail & Ram's Horn  (メキシコ産)

 

 

魚のしっぽ−メキシコ、チワワ、ナイカ鉱山産

雄牛のツノ - メキシコ、ロペス・ポルティーリャ鉱山産

 

石膏の標本を2つ。
上はフィッシュ・テイル(魚の尻尾)、下はラムズ・ホーン(雄牛の角)と呼ばれているもの。結晶が成長するとき、双晶したり、複数の核から生じた結晶が連なったり、自重でたわんだり、特定の結晶面の成長が優先されたりといった理由で、鉱物にはさまざまな形態が現れる。その様子に私たちはふとなじみの生命体を連想する。
クックス・コム(鶏のとさか)、桜石、菊花石、孔雀の羽、聖十字、ビーナスの金髪、月のおさがり、砂漠のバラ鉄の花…。
それは鉱物は生命体かという問いかけではなく、私たちは世界とどう関わり合うのかという実存的な認識である。私たちはいつでも、あらゆるものに−時に機械にさえ−絆を探し求める。そして生命の予感を感じ、愛でるとき、私たちと世界との間に心の交流が生まれる。鉱物に。ぬいぐるみに。車に…。

石膏に関する余談。
石膏の細かい粒子が緻密な塊に集合したものを、雪花石膏(アラバスター)という。沙翁はマクベスかなにかで、「アラバスターの如き白い肌」という言い回しをしていたが、それは温もりと柔らかさと透明感のある白い塊だ。大理石よりよく光を通すので、かつてヨーロッパではランプや燭台のホヤに愛用された。
しかし粗悪品を偽って、儲けを企む輩にも事欠かなかったらしく、アラバスターはまがい物の大理石だという観念もあるらしい。
TVのなんとか鑑定団で有名な西洋アンティーク商 I 氏は著書に言う。
「一見すると同じように見えるが、全く別ものなのが、大理石とアラバスタです。大理石は石ですが、アラバスタは大理石の粉をゴム糊と混ぜて練ったものです。双方の決定的な違いは石目の有無にあります。」
練り物だというなら、それはアラバスタでなく、「あら!パスタ?」だろう。
しかし本物のアラバスターは緻密な石膏であって、繊細で優美なものなのであります。
「その瞬間、まじりけのない薄手の雪花石膏の壺のうしろでランプがともったように、エリザの顔はぱっと明るんだ」ディネーセン「エルシノーアの一夜」より横山貞子訳)

追記:現代では一般に石膏(雪花石膏)をアラバスターと称するが、大理石で作られた古代(例えばエジプト)の製品もまたアラバスターと呼ばれていた経緯がある。上記のエピソードは、古代大理石の芸術品を石膏プラスター(焼き石膏)または大理石の細片を混ぜ込んだ石膏で作った模造品を指して、斯界で呼んだものと考えられる。
アラバスターの語源は諸説あり、プリニウスはエジプトの古都アラバストロンに帰している。 エジプト語のア・ラ・バスト a-la-baste、すなわち「バスト女神の容器」を意味するともいう。アラビア語のアル・バスラー al-basrah、すなわち「バソラ市で採れる白い石」とも。訳語の雪花は漢語からきているらしいが出典不詳。

cf.No.884 (有名産地 ナイカ地方)

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