967.水晶(小面とマクロモザイク) Quartz  macromosaic  (スイス産)

 

 

 

煙水晶 −スイス、グリンゼル産 (No.265 の標本)
z面の下の柱面に見える軽度のマクロモザイク構造

r面(上の画像の左側に見える錐面)の下に
現れたさまざまな小結晶面

別の r面の下の小結晶面 肌は粗い
r面には凹像が見られる

トライゴン形の凹像(結晶面)と、これらを繋ぐき裂

面反射光で現れる錐面のマクロモザイク構造

また別の r面の下の小結晶面
r面の下の柱面は右側の方が少し凸になっており、
左側との境界に段差がある
そのため、左部分と右部分の2ケ所に
等価な小結晶面が分かれて並ぶ

2, 3は大傾斜面(微斜面)

 

水晶の自形結晶の概形を支配しているのは、ふつう6つの錐面(r面, z面)と六角の柱面(m面)との3種である。cf. No.942
このうち錐面は柱面よりも安定で平坦な面を形成しやすく、渦巻き成長による成長層が発達しやすい。渦巻き成長の痕跡(あるいは過程)は、錐面に対して微小な傾斜をもった微斜面や等高線模様を伴った成長丘として面上に記録されて、時には肉眼でも観察出来る。また稜や隅からのステップ式成長の痕跡が見られることもある。cf. No.963No.964No.965

一方柱面は錐面と比べるといくらか不安定な面である(F面であるが S面の性質も現れやすい)。理想的には柱軸に平行な、鏡のようになめらかな平坦面をなして渦巻き式の層成長が進むのだが、傾向として錐面の底辺に平行な条線の発達や柱面の稜からのステップ式の成長痕が見られることが多く、細かく変化する傾斜面が複合して錐面に向かって先細ってゆくことも多い。 cf.No.945No.946

このほかに錐面と柱面との間に現れるいくつかの微小な結晶面があり、代表(頻度の高いもの)として s面、x面、M面(大傾斜面)が挙げられる。mindat は以上の6種の面による結晶図を示しているが、私たちが普段手にとる類の鉱物本では M面を省いた5種(あるいは主要3面+x面の4面)が示されるのがならいだ。おそらく右手水晶、左手水晶、ドフィーネ式双晶といった形態を説明するにはこの5面(少なくとも4面)を扱わざるをえないからだろう。
 s面、x面、M面はふつう自形結晶の概形に影響しない局所的な小面であり、柱面よりも不安定で出現しないことも多い。しかし時には、いわゆるウィンドウ・クリスタルのようにs面が大きく発達して鏡面をなすことがあるし、テッシン晶癖のように大傾斜面が長く伸びて、柱面を優越して概形を支配することもある。ある種のねじれ水晶(グウィンデル)ではきわめて大きな x面が現れる。
フロンデルは Dana 7th に 112種の面が確実に存在すると記した。とはいえ、(もし現れたとして)これらが何面に相当するか判断するのは、ほとんどの場合、素人には無理ゲーに等しい。 cf. No.947

さて、このページではスイス産の煙水晶の標本を例に、結晶面の配置を観察してみたい。
この標本は No.265 に紹介したもので、概形の整った、シャープな稜線を持つ一見単結晶に見える水晶だが、柱面に軽度の成長分域が見られ、条線がアミダくじのように分断している(1枚目の画像参照)。すなわちマクロモザイク構造を帯びて、全体的な秩序の下に複数の結晶領域が幾分かの不整合を伴って統合された、多結晶集合体と考えられる。
3つの r面それぞれを正面に見て、結晶面の配置を線画に表した。

★1つ目。
2枚目の画像(と次の線画)の正面に見える錐面は、その下の柱面に x面などの半面像が現れていることから、r面と考えられる。この r面は向かって右側に見える z面より大きい。また左側に見える z面よりも広いのだが、柱面に続く底面の高さは z面の方が下の位置にある。そのため肩に現れた s面は左下がりの細長い形状をしている。形態的な左手水晶である。cf. No.965 補記1の図参照
s面の右下に、柱面に対して数度傾いた広い傾斜面があり、傾斜は途中で変化して2つの面をなす。出現頻度から考えると、どちらかが x面であろうが、どちらかを言うことは難しい。私は下側の広い方を x面とみるが、仮にどちらか一方だけが現れていれば、一目それを x面と判断するに違いない。上側の面が何面か、(立体)角度を測って面指数を決定しないことには判然しないが、とりあえず u面かなと思う(根拠はない)。
柱面の右側には r面のすぐ下に2段階の微傾斜があり、2種の大傾斜面が見られる。左側の z面の下にも1つの大傾斜面がある。微斜面と言えそうである。
これだけ明瞭に観察出来る面のいくつかが、一般の愛好家向けの鉱物本に載っていないのは不思議である。

ちなみにシンカンカスの甘茶鉱物学(1964)の図237には、この線画と同様の面配置を持った右手水晶の結晶図が示してあり、これを踏襲すると、私が u面と書いた面は x面で、x面と書いた面は (7181)の指数を持つ v面ということになる。ただし Dana 7th によると v面の出現頻度は Rランク(レア)だ。一方、u面は (3141)の指数を持つ面で、出現頻度は VCランク(とってもふつう)だ。
大傾斜面は (4041)の指数を持つΥ(イプシロン)面と標識されている。これはまあ、ありうる。M面なら (3031)の指数を持つ。

★2つ目。
次の画像(と線画)は一枚目の画像の右側に見えている r面を正面にして撮影したものだ。形態的な左手水晶で、左側の z面の底面は r面の底面より高い位置にある。そこで s面が現れれば右下がりの細長い形状をとる。実は画像ではほとんど分からない程度の狭い狭い s面があるのだが(光の反射で確認できる)、面というより細い糸のようなものだ。
広く見えている三角の面は二段の傾斜に分かれていて、先と同じ判断をすれば右下の広い方が x面で、左上の狭い三角は u面であるが、自信が持てないので線画には (x)と記した。
スイスアルプス産の水晶は、しばしば s面を欠いて、一つの三角面が大きく表れることが珍しくなく、古い鉱物本では結晶図に三角面(x面)のみを示してドフィーネ式やブラジル式双晶の説明に使っているのを見る。(※例えば佐藤「大鉱物学」や原色鉱物岩石検索図鑑の、水晶の双晶の説明図)

さて、x面と思しい広い三角面は、よく観察すると途中で2つの縦筋(別の結晶面)が縦断している。光の反射からすると m面(柱面)であり、柱軸に垂直な条線も入っている。つまりこの広い x面は一枚板でなく、段差を持って(柱面を挟んで)繋がっているのだ。縦方向のマクロモザイク構造と相関がありそうに思う。(※自形単結晶に階段面が現れてもおかしくはないが。)
光の反射具合からすると、この x面の肌は比較的粗く平坦性が劣る。(x)面の肌はより粗い。すると、(x)面は x面に対する微斜面として現れた暫定的な面であるかもしれない。
柱面(m2)の右側には r面のすぐ下に一段の大傾斜面がある。左側の z面の下には二段の大傾斜面がある。

r面を観察すると、三角形や銀河渦巻き形の凹部が多数あり、その間をき裂が走って繋がっている。r面で光を反射させてみると、き裂の位置はおそらくマクロモザイク構造の分画の位置に相当する。
凹部はあきらかに結晶面で構成されているが、これらの面は多結晶集合体の成長に伴って形成されたものだろうか、それとも、いったん成長して平坦な広い錐面が形成された後で浸食作用によって生じた食像だろうか。
仮にこの結晶が単結晶で、錐面が層成長によって一様に化粧されたものだとすると、こうした凹部は結晶構造の弱い箇所を起点として広がった食像と考えるのが妥当だろう。しかしマクロモザイク構造の多結晶体であれば一概にそうとも言いきれまい。
今は問題の提起にとどめておく。

★3つ目。
最後の画像(と線画)は残るもう一つの r面を正面に撮影したものだ。この面もまた左右の z面より広い。この標本では3つの r面はいずれも3つの z面より広く、また錐面の頂点を形成しているのは3つの r面であり、z面はいずれも関与していない。
線画で r面の底面の稜線が右下に曲がって見えるが、実際は右にゆくほど画面から突き出す方向に伸びている。画像では判りにくいが、柱面の左下の方は別の結晶の錐面が斜めに突き刺さる感じに内部まで進入しており、その影響か、柱面の左半部は右半部よりも成長が遅れたらしく、厚みが薄いのだ。そこで錐面と柱面との間の肩に生じる半面像や、錐面の下に生じる大傾斜面が、左半部と右半部で2つに分かれて出現したのが、線画に見る小面の配置である。
左半部に x面と 2, 3 と標識した2段の大傾斜面が現れている。これらの右に狭い縦長の面が見えるが、柱面(m1)に平行な柱面であり、これを境に柱面(m2)が左半部と右半部とに分かれる。そして右半部に左半部と同様の、x面と 2, 3に相当する大傾斜面が再び現れているのだ。
右半部の x面は傾斜が二段になり、肌の粗さは(x)の方が粗い。しかし傾斜角度の差はごく僅かである。

このように本来は肩に現れる小面が、ときに柱面の半ばに独立した小面の顔をして現れることがある。ということを理解しておくと、水晶の面を眺める愉しみが増す。いずれ、別の標本で同様の例をお目にかけるつもり。cf. No.976

こういうことをつらつら考えて標本を眺めていると、日々は思いがけない素早さで通り過ぎてゆく。

 

補記:マクロモザイク構造の水晶を水平に輪切りして内部の構造を示した図を紹介しておく。原図は フリードレーンデル Friedlaender が1951年に報告したもので、Dana 7th に引用された。Dana 7thはこの種の構造を薄いラメラ状の多結晶構造と描写し、マクロモザイクという語は使っていない(別の箇所でリネージ構造と呼んでいる)。各セクション間の光学異方性によって、クロス・ニコルを用いた干渉色によってその境界を観察出来、また格子偏光をシュリーレン光源に用いても確認できるという。またエッチングによっても視認される。

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