501.紅水晶 Rose Quartz (ブラジル産) |
「一輪の薔薇はすべての薔薇」とリルケが語っている。
辻邦生は、この言葉を介して、「たとえば、宋の白磁の壺があるとすると、それが一個机の上にのっているのではなくて、壺の示す空間、あるいは世界がすべてのものを包み込んでいる。一輪の薔薇のなかにはすべての薔薇が顔を出している。あるいは薔薇の全歴史、全存在がたった一輪の薔薇のなかにもある」のだと説明している。
しかし鉱物愛好家なら、ここは迷わず鉱物標本を引き合いに出すところ。
「一個の薔薇水晶の標本は、すべての薔薇水晶を代表している」と。(そこに『標本』の存在意義があるわけで)
画像はブラジル産のローズクオーツ。かなり色が濃く、かついろいろな状態が観察できる。一方の面は自形結晶が不明瞭で、ほとんど玉髄〜鍾乳状になっている。その隣の側面では自形結晶が平行に連なっている様子が見える。反対の面は、ほぼ塊状のローズクオーツの表面を無色透明の普通の水晶が晶脈状に覆っている。
紅水晶は塊状のものはかなり大きなものがあるが、自形結晶は小さいものしかない、と言う。この標本をみていると、その理由の一端に、生成温度が関係しているように思えてくる。つまり紅水晶は、珪酸分子がゲル状に近づくような−規則正しい整列を得るのが難しいような−低温で形成される傾向があるのではないか、ために玉髄状〜塊状にはなりやすくても、整った大きな結晶面が得られにくいのではないか。
紅水晶の発色要因は、ルチル説、燐説、デュモルチェ石説さまざまある(⇒No.412)。これらの元素や鉱物は紅水晶の中に肉眼では確認できない程度の大きさにとどまっていなければならない。言い換えれば、微小な状態で水晶中に拡散していてはじめて、淡いピンクの色を帯びることが出来るのではないか。その条件は珪酸がより低温の状態にあるときに実現しやすいのではないだろうか。
もっとも、単にこれらのインクルージョンが自形結晶の成長を阻害しているだけかもしれないけれど(それで3番目の画像のように、透明な水晶は紅水晶の後からでも整った自形結晶を作る)。
この考察に関連する質問。ピンク色透明のオパールは普遍的に存在するか?
う〜ん、分かりません…。ただ、オパールになると、むしろ透明度が落ちて白濁する傾向が生じるのも確か。そう考えると、ピンク色不透明のオパールはわりとよくみかける気がする。発色要因はマンガンだったりするらしいが。(⇒No.15、No.380)