778.蛍石 Fluorite (ロシア産) |
1990年代前半は、ソビエト=ロシア産のかつて類を見ないアゼンボーゼンタムな鉱物標本が西欧市場に大量に流れ込んだ時期として、西側愛好家の間で末永く記憶されるであろうと私などは思っているが、一方ロシアの人々にとっては国家がどうこうという以前に、自分たちの生活基盤そのものが激しく大きく揺さぶられた時期に相違ない。しかしそういうことを我々日本人は、例えば浦沢直樹著「Yawara!」のテレシコワの身の上話など読みながら他人事と傍観し、標本の流入を諸手をあげて歓迎していた(日本もバブルがはじけて大変な時期が来ていたが)。
流入品の代表格はやはり近くて遠い異土ダルネゴルスク・ブランドだろう。オレンジ色に蛍光する無色透明の方解石美晶、バラエティ豊かな水晶各種(cf.
No.776, No.777)、磁硫鉄鉱の巨晶、閃亜鉛鉱や方鉛鉱、ダトー石、ダンブリ石、マンガン斧石。
そしてこれまた無尽のバリエーションを見せる蛍石。これまでサイトで紹介した標本には次のものがある。No.
24、No. 116、F35、F52、F55。 上の画像もそんな一つで、標本商さんのお話によれば、イルクーツクにあった博物館が混乱期に閉鎖され、その販売用標本が日本に回ってきたうちのヒトカケラという(cf.
No.324)。
世が世ならばまだロシア国内にあったのか、あるいはお手軽な外貨獲得のため国外に放出されていたのか、それは知りようのないことながら、ネット社会と化した現代を顧みれば、やはり早晩、国境を越える運命だったのではないかと思われる。
無色半透明の良晶が一面に群れている。黒い小さな結晶を伴っているのは珪灰鉄鉱で、鉄分の豊富なスカルン鉱床に出たことを想わせる。すると間隙に付着したオレンジ色の土状物質は酸化鉄(赤サビ)なのだろう。