スペイン産の鉱物 続き。
アラゴン地方、サラゴサ市の南東27qにある小さな町、フェエンテス・デ・エブロの郊外のアラバスター採石場に産した石膏の美晶。1985年から94年にかけて、市場を大いに賑わせた。ギャラリーNo.882の標本と同類だが、もちろん大きさは比較にならないくらい大きい。いくらでもあるはずなのに、この
20年、どうして市場に見かけないのか不思議だ。
ムルシア産の石膏(No.884)と併せて、採れすぎるのがスペイン産の難点か。
ドロマイト(苦灰石)の美晶。ナバラ州 エウギ鉱山 アズカラーテ採石場産。
フランスとの国境に近いナバラ州エウギにマグネサイト(菱苦土石)の採石場が2ケ所ある。採掘された鉱石は南15km
にある精製場に送られ、比重選鉱によって精製された後、約1,800℃の高温で焼き固められて、炉用煉瓦に作られた。
この産地は1945年に付近の川床の砂がほぼマグネサイトであることが気づかれて、周辺の森林地の地質が探査され、河の南西側の土手沿いに鉱床が発見されたもの。
数年後に最初の採石場、カンテラ・デ・ミリタレス(兵士の採石場)が開かれ、やがて内部にドロマイトの結晶が詰まった
50m四方、20m深さの巨大な洞が見つかった。主任技師のフアン・コルドバはその価値を察して晶洞を保全し、結晶の保護採集に努めたといわれ、1965年頃から標本が市場に出回るようになった。初期の美晶標本は
70年(コルドバの没年である)に入って急に姿を消したが、
78年にいくつかの晶洞が見つかって再び出回るようになったという。90年代、2000年代にも晶洞帯が現われ標本が流れた。
ドロマイトの産状は晶出時期によって4期に区分されているが、第2期の結晶は透明〜半透明、白色〜灰色のよく整った菱形で、世界最良の折り紙がついている。往時は20cmに達するものが出たという。ちなみにこの産地のマグネサイト結晶はたいてい葉片状をなす傾向がある。
アストリアス地方、ベルベス、ラ・カナーナ、アナ鉱山産 紫色蛍石の上に葉片状の重晶石が載った標本。
アストリアス地方についてはF13に書いたが、1980年代以降、蛍石標本の供給をリードしてきた土地柄である。
北西部沿岸の小村ベルベス付近にはかつていくつかの蛍石採石場があり、特にアナ鉱山とサン・リノ鉱山の生産量が多かったが、いずれも90年代までに稼働を終えた。
アナ鉱山は1986年に閉山した後、探鉱者やコレクターたちが押し寄せ、重機を持ち込んで採集に励んだ結果、蛍石の鉱化帯をほぼ採り尽くしたと言われるが、その分
80年代に多数の標本が市場を賑わせた。濃い紫色のサイコロ形で、内部に濃淡の縞模様が発達するのがトレードマーク。重晶石や方解石を伴う。上の標本はどちらかというと重晶石の標本か。
アストリアス産蛍石は 90年代に入ると、エミリオ、イエミーナ、カラビア等と標識されたものが主流となった。
アストリアス地方の蛍石産地の一つ、ラ・コリャーダ産の淡青灰色蛍石。
ラ・コリャーダは沿岸から内陸に10-15キロほど入った小村で、村を取り巻くように鉱山や採石場があった。1936-39年頃に稼働が始まり(※リソグラフ社のNo.9蛍石特集には1924年に始まったとある)、40年代前半に短い隆盛期を見たが、運営資金の盗難にあったりしてほどなく休山した。その後
70年代に断続的に採掘が行われたが 1986年に閉山した。90年代以降もこの地域では折々蛍石の晶洞が見つかっているらしく、そのたび新産標本が市場に出回る。標本の質は今のところ
80年代がベストと言われる。
サイコロ形をベースに、結晶のヘリに小面(12面体の面)が現われることが多く、しばしば複雑な形状を見せる。
アストリアス地方、ペナメリェーラ産と標識された方解石の巨晶。蛍石が一枚看板のアストリアスだが、方解石でも良品が出るのらしい。
こちらはカタルーニャ州バルセロナ県エル・パピオル、ベルタ採石場産と標識されたミント・グリーンの蛍石。
産地については No.124参照。 私としては蛍石の銘柄産地の一つと思う。
エル・オルカホ鉱山産の緑鉛鉱。鉱山については No.527参照。博物館にはこの標本のほか、同産地の大きな標本がいくつも置いてある。スペインが誇る銘柄品の一つと言えるか。
アンダルシア州ウェルバのリオ・チント鉱山産のゲーサイト(針鉄鉱)
表面に干渉色が現われて虹色を呈する標本が有名。私の印象ではこの標本のように金色をベースにした変化色が多いと思う。
産地についてはギャラリー No.41、 No.283
補記2 参照。
アンダルシア州セビリア、ガダルカナル産の板状の自然銀。
スペインの銀といえば、新大陸のポトシやメキシコ各地の銀山が有名だが、国内にもいくつか銀鉱山がある。
その一つから出たものらしい。この鉱山については何も知らないが(mindat
にも銀の産地としてはリストアップされていない)、ともかくなかなか立派な板銀である。
アンダルシア州セビーリャ産のぶどう石の結晶。
短冊状の結晶を重ねて束ねたような集合形態を示している。
こんなのは初めて見た。 No.783の結晶を亜平行連晶させた感じ。
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