689.トウペルスアツィアイト Tuperssuatsiaite (ナミビア産)

 

 

ツペスワットシアイト石(茶色放射状)、エジリン(黒色柱状)
-ナミビア、ウィンドフック、エイリス採石場産

 

イリマウサークを原産地として 1960年代後半頃までに記載された鉱物を No.681 で紹介したが、その後、1969年にアンデルセンらによって tetragonal natrolite (tetranatrolite)が、1978年にカルップ・ミュラーによって skinnerite が、1979年にロンズボーらによって vitusite が、そして1984年にはペテルセンらによって  kvanefjeldite や tuperssuatsiatite が記載された。( tetranatrolite は後に IMAに否認され、ゴンナルド沸石 gonnardite となった)

Tuperssuatsiaite は Tuperssuatsiat の湾部で採集された鉱物で、ここでは複合貫入岩体の晶洞中に、氷長石ソーダ沸石エジリンなどを伴って産した。低温熱水脈から晩期に晶出したものである。
それから数年後の 1992年、ナミビアのエイリス採石場で大量の本鉱が見つかった。茶色い針状結晶がイガ栗のような放射球状、あるいは扇状、花弁状に集合しており、一方から強い光を当てながら回してみると、いくらか透明性を持った針がメタリックな光に閃く。現在、市場に流通している標本はほとんどこの第二産地のもので、上の画像もそうだ。ここは道路舗装用の砂利採集場で、フォノライト(響岩)中の不規則な形状の晶洞に、微斜長石、エジリン、ソーダ沸石、ユージアル石、バストネス石、魚眼石方沸石、くさび石など多種の鉱物を伴っている。
2005年にはブラジル、ポソス・デ・カルダスのボートラン採石場で確認された。こちらも産量豊富であるらしい。
こんな特徴的な(しかも大量にあるらしい)鉱物が最近まで発見されずにいたのはフシギな気がしてならないのだが、以前はなにか別の(既知の)鉱物と考えられていたのだろうか。

ナトリウムと鉄の含水珪酸塩鉱物で、組成式 NaFe3+3Si8O20(OH)2・4H2O。鉄成分のイオン価は、グリーンランド産では一貫して第二鉄の状態(Fe3+) であるが、ナミビア産では一部が第一鉄(Fe2+)となっているという。鉄分を置換してマンガンを含むものがあり、またグリーンランドでは亜鉛を含むものも報告されているが、後者の研究は進んでいないらしい。結晶はもろく、b, c 軸を含む平面に良好なへき開を示す。断口は不均等ないし貝殻状。双晶はふつうに認められる。パリゴルスキー石-セピオ石グループのひとつに分類されている。

さて、 Tuperssuatsiaite は和名でどう呼ぶのか。ネット上では概ね トウペルスアツィアイトまたはトウペルスアツィアイト石の表記となっている(第二音ウは小文字表記のこともある)。
鉱物名の語尾にくる接尾辞 -ite (lite) は石(リトス)の意で、和名の語尾は通常この部分の音を抜いて「石」をおくのであるが、(例えば Benitoite はベニト石と記し、ベニトアイト石としない)、本鉱の場合は地名の語尾が -ait アイトの音を持つため、変則的にも聞こえる呼び名が通っているのであろう。つまりトウペルスアツィアイトと呼ぶときは英名をそのまま音にした表現であり - もっともどう読んでいいのやら俄かには判じがたいが -、トウペルスアツィアイト石と呼ぶときは「地名+石」の表現となっているのである。ああ、舌かみそう。

ちなみに音表記の妥当性には異論があって、かのホリミネラロジーさんは、東京のデンマーク大使館に(地名の発音を)問い合わされた結果として、カタカナ表記はツペスワットシアイト石がふさわしいと指摘されている(通販リスト2006年2号)。
このお店は以前にも、日本語では読みにくい名称の標本を扱われるとき、例えばSzenicsite や Pezzottaite など、それぞれ名の由来となった当人に発音を質問して、セニックス石、ペツォッタ石と表記されてきた。個人的に Zorite をザリャー石と発音すると教えていただいたこともある。鉱石抒情派の我々には、そうしたちょっとした薀蓄が嬉しい。

補記:フォノライト(響岩)は、成分的に深成岩のかすみ石閃長岩に相当するトラカイト(火山岩)。白榴石、方ソーダ石、ノゼアン、藍方石などを含んで、さまざまなタイプのものになる。うすい板状の石を鉄槌で叩くと美音を発するので Sound stone と呼ばれ、学名 Phorne lithos を訳して響岩とした。益富博士はしかし讃岐岩(サヌカイト)の方が美音であろうとしている。こちらは安山岩質の岩石で、叩くとカンカンと金属的な音がするためカンカン石と呼ばれる。 1891年にドイツの岩石学者ワインシェンクが来日して研究し、Sanukiteの名を与えた。縄文〜弥生期に矢じりや石刀に加工して用いられた。cf.明治時代の有名鉱物 8項。

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