790.アダム鉱2 (メキシコ産)

 

 

adamite

アダム鉱 −メキシコ、デュランゴ、マピミ、オハエラ鉱山産

 

アダム鉱は亜鉛の砒酸水酸塩鉱物で、組成式 Zn2(AsO4)(OH)。亜鉛と砒素とに富む金属鉱床の上部酸化帯に二次鉱物として産する。成分変化の大きな種で、亜鉛分は銅やマンガン、(一部)コバルトに置換されうる。銅優越種のオリーブ銅鉱との間の組成は連続する。かつて中間種は銅アダム鉱 Cuproadamite と呼ばれていたが、現在は亜種扱い。マンガン優越種に Eveite があるが希産(補記)。一方、砒酸成分を燐酸に置換したものが燐銅鉱にあたる。
結晶構造は斜方晶系だが、銅を多く含むものに正方晶系の相もあって、共存することがある。三斜晶系のものはパラアダム鉱と呼ばれる別種。レグランド石は組成的にアダム鉱の1水和物に相当し、時に区別し難い。ただ一般にレグランド石は本鉱よりも黄色味が強い。

本鉱を生じる元となる初生鉱物は多くの場合閃亜鉛鉱と考えられており、ほかに菱亜鉛鉱異極鉱などの二次鉱物も亜鉛の供給源になるとみられる。一方の砒素成分は砒素鉱物(硫砒鉄鉱など)からの直接誘導でなく、砒酸を含む溶液が前述の亜鉛鉱物に作用するものとみられる(亜鉛と砒素とを共に含む初生鉱物は含亜鉛性の砒四面銅鉱くらい)
今日、市場に出回っている標本はほぼオハエラ産かツメブ産に尽きるが、原産地はチリのチャナルシロである。原標本を提供したフランスの鉱物学者ジルベール・ジョゼフ・アダム(1795―1881)に因んで 1866年に記載された。
長い歴史のオハエラ鉱山で、チリ産以前にアダム鉱が見つかっていなかったのか、はっきりしたことは分からない。スペイン人征服者時代の記録はほとんど存在せず、そもそも金や銀鉱以外の鉱物は彼らの興味を引かなかったのである。

スミソニアンのW.フォーシャグ博士がオハエラを訪れたのは 1927年だったが、彼がズリから採集したのはスコロド石やその近縁種で、アダム鉱には気付かなかったようである(今日、このズリでアダム鉱の微結晶が採集できる)
オハエラのアダム鉱は1946年、2人の標本商(A.ワイズとD.E.メイヤー)が標本採集にやってきた時に始まるとされる。彼らは E.マゲラノスという鉱夫の案内で精力的に古い坑内を歩き回っていた。素敵なモリブデン鉛鉱や緑色のミメット鉱がたくさん採れた。ある日、ラ・パロマ(ラス・パロマス)脈のレベル4で、先導のマゲラノスが「うわぉ!なんて綺麗なんだ!」と叫び声をあげた。彼は偶然見つけた洞穴をカーバイド灯で照らしていた。開口径1mほどの穴の中、黄色や黄緑色のアダム鉱が壁面をあまねく埋め尽くしていた。彼らは晶洞を根こそぎ浚い、かつてロス・ラメントス産のモリブデン鉛鉱を運んだ時と同じテでうやむや国境を越え、標本をツーソンに持ち込んだ。そしてセンセーションが巻き起こった。この時採集された一番大きな標本はほぼ 90cm四方の大きさを確保し(母岩は褐鉄鉱)、重さは 35kg ほどあった。
彼らはオハエラのアダム鉱は全部自分たちが手に入れたと考えていたが、もちろん間違いだった。以後、アダム鉱(その他の鉱物)標本は、地元鉱夫のいい小遣い稼ぎになっている。レベル4の放射球状結晶は径10cmに達するものがある。

60年代前半の市場はオハエラ産アダム鉱であふれかえり、安価な高品質標本がよりどりみどりだった。当時発見された晶脈の一つは大きさが 3x6x7.5mあり、脈床にぎっしりアダム鉱が生えていた。なかには紫色の結晶もあった。レベル4の「アダム鉱ゾーン」からはトン単位で数えうる標本が採集されて市場に流れた。
こうなると値崩れは必至なのだが、60年代後半に入ると標本は忽然と姿を消した。お金にならないから採るのを控えたのだろう。1969年の夏、ある晶洞から2トン分の標本が採集されて、再び市場にアダム鉱があふれたが、空白の数年間が利いたか、値段はかえって上昇していた。
その後は需給バランスが落着き、適度な流通が維持されて今日に至る。レベル4以外にも知られた採集スポットがいくつかあるが、緑色系が多いところ、青色系のところ、紫色系のところ、灰黄色系のところ、単結晶の出るところ、球果集合の多いところ、さまざまである。

オハエラ産の(黄色系)アダム鉱は、長波・短波紫外線のいずれでも強烈な緑色に蛍光する。発光因子は微量に含まれるウラニルである。(エメラルド緑色の)含銅アダム鉱は銅が抑制因子として働くためか、蛍光性に乏しいことが多い。蛍光の程度はまた産出スポットによって異なる。レベル4の黄色アダム鉱は理想組成に近い純粋なもので、かつ蛍光性が強い。

補記:アダム鉱の名はフランスの鉱物学者で標本提供者の G.J.アダム(1795-1881)という実在の人物に因む。イヴ鉱 Eveite は組成 Mn2(AsO4)(OH) で、その結晶構造と形態がアダム鉱に類似することに因んだ。つまりアダムとイヴというわけ。1967年記載。特定の女性が想定されていたかどうかは定かでない。

鉱物たちの庭 ホームへ