834.アルベゾン閃石 Arfvedsonite (マラウィー産)

 

 

Arfvedsonite

Arfvedsonite

アルベゾン閃石と正長石 -マラウィ、ゾンバ、マローザ山地産

 

19世紀の前半は前世紀に始まった定量分析を武器に近代的な化学の概念が確立された時期であり、またやはり前世紀に発見された電気を武器に従来の化学的手法では分割不能だった「元素」から、新しい(現代に続く)「元素」が相次いで単離されていった時期だった。
伴って鉱物学でも定量的な組成分析が行われて、またベルセリウスらの活躍で吹管や試薬を用いた定性分析のノウハウも増進した。新しい鉱物が数多く発見され、また昔からさまざまな名前で知られた(別種と理解されていた)鉱物はひとつにまとめられていった。このことは今日の鉱物学名の多くが、この時代のビューダン(1832)やハイジンガー(1845)の鉱物書に整理された呼称に負っていることでも分かる。

電気分解で得られた元素としてよく知られているのは一連のアルカリ・アルカリ土類金属で、立役者はイギリスの化学者 H.デービー(1778-1829)である。 1807年、彼は水酸化カリウムから金属カリウム(ポタシウム)を単離することに成功して狂喜乱舞したという。そして数日後に水酸化ナトリウムから金属ナトリウム(ソディウム)を得た。1808年には同様に水銀アマルガムとして(やや不純な)カルシウムやバリウム、ストロンチウム、(マグネシウム)を得た。水銀を用いる電気分解法はベルセリウスからの手紙にあった示唆を受けて彼が改良した手法に拠った。
そして第三のアルカリ元素リチウムは、カリウムやナトリウムと明らかに異なる物質としてアルベゾン(とベルセリウス)によって 1817年に発見された。(cf. No.829)

J.A.アルベゾン(アルフヴェドソン)(1792-1841)は富裕な商人一族の出で、当時の資産階級の例にならって14歳まで家庭教育を受けた後、ウプサラの高等学校で法学と鉱物学とを学んだ。鉱山学試験に合格し、ストックホルムの王立鉱山局に入って書記官を務めた。1817年の初め頃からベリセリウスの私設実験室に出入りを許されて才能を発揮し、ほどなくリチウム発見の栄誉を得たのだった。その報を受けたデービーは 1818年には早くも微量のリチウム金属を得たが、この年の夏、アルベゾンは新元素セレンの試料を持参してイギリスへ行き、H.デービーや A.マルセ、W.H.ウォラストン博士ら、ベルセリウスの知己の化学者たちに届けている。その後ベルセリウスと合流してパリやリヨンを回り、プロシアを横断してスウェーデンに帰ると、1819年の冬には自前の実験室を建てて、旅行中に求めた実験装置を据えた。1821年にスウェーデン科学アカデミーの会員に選ばれている。この年、彼は藍晶石かすみ石方ソーダ石の組成分析を報告しており、翌年には肉桂石(ガーネット)、金緑石、方ホウ石を分析し、また金属ウランの単離を試みた。次第に一族の事業である工場の経営が忙しくなり、必ずしも化学にばかり時間を割いていられなくなったが、この頃は化学者としてさまざまな業績をあげている。

1823年、イギリスの鉱物学(結晶学)者 H.J.ブルック(1771-1857)は新鉱物アルベゾナイト(Arfwedsonite)を記載した。ブルックは「鉱物学がアルフウェドソン氏の仕事から受けた恩恵により、私はこの鉱物に彼の名をつけたいと思う。これはグリーンランド産で、黒色で薄片になりやすく、これまで含鉄角閃石(ferriferous hornblende)と呼ばれてきたものである」と書いている。
この標本は、かの御大 C.L.ギーゼッケ(1761-1833)が 1806年から13年にかけてグリーンランドに留まって得た大量の採集品の一つであった。彼の採集品を研究したヨーロッパの研究者たちがさまざまな新鉱物を記載していったことは No.676 に書いたが、ブルックもその一人で、標本を分析したところ、ナトリウムが主成分の一つとなっていることを見出したのだった。旧い和名に本鉱をソーダ角閃石と呼ぶ所以である。
組成 Na3(Fe2+,Mg)4Fe3+Si8O22(OH)2。単斜晶系。たいてい長柱状の結晶で産する。へき開{110}に完全、硬度 5.5-6、比重約3.4。アルカリ火成岩の複合岩体に造岩鉱物として産し、しばしばペグマタイトに巨晶をなす。グリーンランドでは、カンゲルルアルスークのイリマウサーク複合岩体に知られており、ユージアル石(ここが原産地)を伴う標本がオウル・ヤンセンの「世界の鉱物」(2002)に載っている。またユリアナハーブ付近のTuperssuatsiat ツペスワットシアト(cf. No.689) にも産する(どちらが本鉱の原産地かはよく分からない)。

画像はマラウィ産の標本。今日出回っている見栄えのよい本鉱はたいていこの産地のものである。マローザ山地は 1990年代の初め頃からエジリンの良標本で知られるようになったが、希元素を含むアルカリ閃長岩が貫入し、花崗岩ペグマタイトのある(エジリンや長石類がその晶洞に出る)土地である。
ここのアルベゾン閃石は10cmに達する結晶があり、風化して石綿状になったものはリーベック閃石に変質し始めているという。

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